キャリア・教育

2019.08.03 17:00

セーラー服おじさんが世界で感じた、日本のコンテンツビジネスの可能性


「コンテンツ自身」の発信は下心が見えバズらない

転機は突然訪れた。ある日、友人から「横浜市のラーメン屋で面白い企画をやってる」との連絡が入った。よくよく聞いてみると、「セーラー服姿で来店した30歳以上はラーメン1杯無料。男女問わず」という内容だった。その友人は「確かセーラー服持ってたよね。行ってみれば」と言った。「正当な理由ができた」と思った。正当な理由があるのとないのとでは、気持ちが全く違う。意を決し、袖を通した。

生まれて初めてセーラー服姿で駅に向かった。駅員や乗客が横目で見ている。しかし、結局、誰からも何も言われなかった。なんだか拍子抜けした。元来、「かわいい格好」は好きだった。長い間、セーラー服を着て外を歩きたいと思っていたが、「やってはならないことだ」と自分に言い聞かせていた。「よく来てくれたね」。ラーメン屋の店主は、笑顔で迎えてくれた。その瞬間、腹が決まった。社会からネガティブな反応がないなら、自分に正直になろう。「セーラー服おじさん」が誕生した瞬間だった。

それから毎週末、渋谷の街を好んで歩いた。すると、「こんなやつおった」と写真つきでTwitterに投稿され、爆発的に拡散した。一方、小林自ら「こんなことしたよ」とツイートした際は、全くバズらなかった。その時、気がついた。「コンテンツ自身」が発信すると、下心が見えてしまう。第三者が心から面白がって発信した情報の方が、受け入れられるのだと。それからは、情報拡散を「赤の他人」の手に委ねることにした。


海外での知名度抜群の小林。中国のイベントにはこれまでに10回以上ゲスト出演した

スペインにキューバ、中国。気がつけば、世界中のオタク系イベントからゲスト出演のオファーが届くようになった。各国のSNS上で画像が拡散。その結果、「有名人」として認知されている国も多い。中国に関しては、これまでに10回以上も呼ばれた。しかし、小林に何か「芸」があるわけではない。歌えないし、踊れない。「中国に来ることができて嬉しいです。みなさんありがとう」と挨拶するだけ。しかし、それに対し観客は大歓声で応えてくれる。ついには、タイ・バンコクの地下鉄駅の壁に、小林の似顔絵が登場した。しかも日本を代表するコンテンツ「ハローキティ」のイラストの隣に。
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文・写真=田中森士

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