セーラー服おじさんが世界で感じた、日本のコンテンツビジネスの可能性

自身が開発に携わるツールについてイベントで解説する小林。普段は情報処理ソフトウェアエンジニアとして一般企業に勤務する


「コンテンツ自身」の発信は下心が見えバズらない

転機は突然訪れた。ある日、友人から「横浜市のラーメン屋で面白い企画をやってる」との連絡が入った。よくよく聞いてみると、「セーラー服姿で来店した30歳以上はラーメン1杯無料。男女問わず」という内容だった。その友人は「確かセーラー服持ってたよね。行ってみれば」と言った。「正当な理由ができた」と思った。正当な理由があるのとないのとでは、気持ちが全く違う。意を決し、袖を通した。

生まれて初めてセーラー服姿で駅に向かった。駅員や乗客が横目で見ている。しかし、結局、誰からも何も言われなかった。なんだか拍子抜けした。元来、「かわいい格好」は好きだった。長い間、セーラー服を着て外を歩きたいと思っていたが、「やってはならないことだ」と自分に言い聞かせていた。「よく来てくれたね」。ラーメン屋の店主は、笑顔で迎えてくれた。その瞬間、腹が決まった。社会からネガティブな反応がないなら、自分に正直になろう。「セーラー服おじさん」が誕生した瞬間だった。

それから毎週末、渋谷の街を好んで歩いた。すると、「こんなやつおった」と写真つきでTwitterに投稿され、爆発的に拡散した。一方、小林自ら「こんなことしたよ」とツイートした際は、全くバズらなかった。その時、気がついた。「コンテンツ自身」が発信すると、下心が見えてしまう。第三者が心から面白がって発信した情報の方が、受け入れられるのだと。それからは、情報拡散を「赤の他人」の手に委ねることにした。


海外での知名度抜群の小林。中国のイベントにはこれまでに10回以上ゲスト出演した

スペインにキューバ、中国。気がつけば、世界中のオタク系イベントからゲスト出演のオファーが届くようになった。各国のSNS上で画像が拡散。その結果、「有名人」として認知されている国も多い。中国に関しては、これまでに10回以上も呼ばれた。しかし、小林に何か「芸」があるわけではない。歌えないし、踊れない。「中国に来ることができて嬉しいです。みなさんありがとう」と挨拶するだけ。しかし、それに対し観客は大歓声で応えてくれる。ついには、タイ・バンコクの地下鉄駅の壁に、小林の似顔絵が登場した。しかも日本を代表するコンテンツ「ハローキティ」のイラストの隣に。
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文・写真=田中森士

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