セーラー服おじさんが世界で感じた、日本のコンテンツビジネスの可能性

自身が開発に携わるツールについてイベントで解説する小林。普段は情報処理ソフトウェアエンジニアとして一般企業に勤務する

トレードマークは白髭とセーラー服。“本拠地”の渋谷を歩けば、必ずと言ってよいほど若者に記念撮影をせがまれる。Twitterで検索をかけると、本人の写真とともに多数の「目撃情報」ツイートが。世界中のオタク系イベントにゲスト出演したり、インターネット番組のコメンテーターを務めたり。ついには、タイ・バンコクの地下鉄駅の壁に、似顔絵まで登場した。

今や「日本を代表するコンテンツ」となった「セーラー服おじさん」こと小林秀章が考える、日本が生き残る道とは。(敬称略)


小学時代からあったある「願望」

見た目のインパクトはあるが、根は極めて真面目な小林。根拠のないことは一切口にせず、世間話ですらロジックを積み上げる。30分も一緒にいれば理路整然としたトークにのめり込み、不思議と目の前の「おじさん」がセーラー服姿であることを忘れてしまう。



「かわいい格好をしたい」という願望は、小学5~6年生のころからあった。ある時、髪留めピンを友達の女子から借りて、付けてみた。なんだか気持ちが落ち着いた。大学生になると、女性用のパンツをこっそり履くようになった。しかしながら、「こういったことは外で言うもんじゃない」と思っていたため、家族や友人には黙っていた。

2010年代初頭、アート作品としての球体関節人形など創作人形を好んで撮影していた小林は、さまざまなイベント会場で、写真作品を展示・販売していた。ある日の、東京ビッグサイトで開かれたアートイベント。イベント特有の高揚感から、「明日セーラー服着て来ようと思うけど、どう?」と仲間に冗談をこぼした。すると、意に反して、誰も止めようとしなかった。後に引けなくなった小林は翌日、セーラー服を持参。トイレで着替え、その格好のまま会場を歩いた。「俺、今とんでもなく変なことやってる」とビクビクしながら。

周囲の受け止めは好意的だった。知らない人から真面目な顔で「お似合いですよ」と言われた。誰もが真剣に褒めてくれた。しかしながら、当時の小林は「アートイベントだから受け入れてもらえた」と考えた。この格好で出歩いてはいけないと、自らブレーキをかけていた。
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文・写真=田中森士

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