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2019.07.12 07:30

原価を公開するアパレルブランド 透明性とリスクの狭間

サンフランシスコのEverlane店舗

今年4月に滞在したサンフランシスコ。そこで一軒の印象的な店と出会った。その名も「Everlane」。「タブー」とされてきたアパレルの原価を公開したことで注目を集める、サンフランシスコ発のアパレルブランドだ。

サンフランシスコの街角でよく目にするスタイリッシュなデザインは、清潔感が漂う。手が届かない価格帯を想起させるが、プライスタグを見ると驚くほどリーズナブル。Tシャツ20ドル(約2200円)、チノパン58ドル(約6300円)と、他のファストファッションブランドと比較し、やや高いか同水準だ。

Webサイトの商品ページを見ると、原価が項目別に細かく公開されている。例えば、55ドルのパーカーの場合、生地の材料費が12.74ドル、ジッパーなどの部品が1.03ドル(約110円)、労務費が5.85ドル(約640円)、関税が3.24ドル(約350円)、輸送費が0.41ドル(約45円)の、合計23.27ドル(約2500円)が原価なのだという。その下には小売価格も「55ドル」(約6000円)と表示されており、Everlaneの利幅が一目瞭然だ。


EverlaneのECサイトは、商品ごとに原価が細かく示されている(EverlaneのECサイトより)

そしてこれだけでは終わらないのが、Everlaneの心憎いところ。小売価格の隣には、「これまでの価格」として「120ドル」(約1万3000円)と書かれている。一般的なアパレルブランドがいくらで販売しているのかを示しているわけだ。

サンフランシスコの店舗は、白を基調とした透明感のある空間で、居心地が良い。目があった店員が笑顔で「ようこそ」と声をかけてくれた。あくまで個人的な印象だが、接客レベルは米国の平均以上に思えた。

陳列された商品に目をやると、グレーのスウェットが目に飛び込んできた。「サンフランっぽさ」のある洗練されたシルエットがシンプルに格好良い。タグには「Made in Ho Chi Minh」の文字。国ではなく都市を表示しているわけだ。EverlaneのECサイトでは、世界中に点在する工場の所在地や従業員数を明記。また、従業員が働く環境について、多数の写真とともに紹介している。写真に収まる従業員らは皆、笑顔だ。

スウェットに袖を通すと、柔らかいストレスを感じない着心地だった。首回りが補強されており、ヨレる心配は当面なさそうに思える。「価格は1〜2万円くらいかな」などと考えながら、恐る恐るプライスタグをひっくり返してみると、なんと50ドル(約5400円)。興奮気味にレジへと直行した。気がつけば、この「ガラス張り」ブランドのファンになっていた。


サンフランシスコのEverlane店舗は、白を基調とした透明感のある空間だった
次ページ > この「透明化」は、先行者メリットがあまりにも大きいスタイルだ。

文・写真=田中森士

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