ライフスタイル

2019.07.14 17:00

障害者の働き方改革。その第一歩は、彼らの「生きにくさ」を理解することから


「身だしなみ講座」の内容は、洗顔・洗髪・整髪・髭剃りといった身だしなみの基礎から、「忘年会に何を着ていくか」「スマートカジュアルでの通勤では何を着れば良いのか」「オフィスメイク」などの応用編まで多岐にわたる。

知的障害・発達障害を持つ方にとって、身だしなみを整える作業は困難を伴う。手先が極端に不器用だったり、鏡を見て寝癖を直すなどの行為(左右反対の空間が把握できない)が難しかったり、苦手なことが多いからだ。

また、一般的に当たり前とされているマナー(=コーヒーカップについた口紅を拭う、人前で制汗剤スプレーを使ってはいけない)についても、一つ一つ学ぶ機会が必要となる。

他にも、自身の身体のサイズがわかっていない(もしくは身体を締め付けるような感触が苦手=感覚過敏)ため、オーバーサイズの服を着ていると、周囲からだらしなく思われてしまう。メイクやおしゃれなど、雑誌やTV、友人との会話などから自然と習得していくスキルを身につける機会が圧倒的に少ないため、職場ですっぴんはダメと言われても、どんな化粧品を使ったらいいのかも、誰に聞いたら良いのかもわからなくて困ってしまう。

また、白いブラウスから下着が透けてしまっていて、性被害に遭ってしまうなどといった危険もあり、たかが「見た目」と軽く考えてはいられない。

我々は身だしなみ支援を通して、こういったソーシャルスキルを伸ばすことで、障害をもっていても、「自分らしく働き、稼いだお金でおしゃれを楽しみ、職場の仲間とともに余暇を楽しめるような、そんな当たり前の社会を作りたい」と考えている。



私は、この身だしなみ支援の経験を通して「伝えた─伝わっている」ことについて深く考えるようになり、仕事でも子育ての場面でも、自身の伝え方や教え方を大きく見直すことができた。

身だしなみ講座後に、障害を持つ若者たちからの感想を聞いて、改めて気づいた課題もある。

「身だしなみに自信を持って、頑張ってお仕事します」

「もっとカッコよくなって、モテたいです」

「お給料をもらったら、ネイルサロンに行ってみたいです」
次ページ > 「生活の楽しみ」や「個性や自分らしさ」の支援が足りていない

文=岩岡ひとみ

ForbesBrandVoice

人気記事