ライフスタイル

2019.06.30 10:00

モータージャーナリストが斬る ママチャリ問題の「グレーゾーン」 


少子化を招く“ヘルメット・ヘア”

しかし、それ以上に不思議なのは、そのお母さんたちがヘルメットをかぶらなくていいこと。もしかすると、これが現在の日本でいちばん有効な「少子化対策」ということなのだろうか。

ヘルメットをかぶったり脱いだりすれば、お母さんたちが時間をかけてセッティングしたヘアスタイルが“ヘルメット・ヘア”になってしまう。ルックスを気にするお母さんたちの場合は、いちいちセットし直す必要が出てくる。

ヘルメットを気にしなければならない状況になったら、日本の女性は子供を育てたくなくなるのではないか──。だって、子供を送ってから仕事や用事で忙しいのに、ヘルメットなどいちいちかぶっていられないはずだ。おそらく当局はそう考え、母親たちに「ヘルメットをかぶりなさい」とは言えないのだろう。

ここで、日本のママチャリを北欧の親子用の乗り物と比較してみたい。

日本のように、自転車の前後にチャイルドシートを付けてそこに子供を乗せると、バランスが一気に悪くなって転倒する危険性が増す。そこで北欧では、主に電動タイプで引っ張るトレーラーに子供を乗せて、それを自転車で牽引する。子供の乗る座席をなるべく低くすることで、走行を安定させられるからだ。それに低い位置からならたとえ落ちたとしても怪我をしにくい。トレーラーには子供を3〜4人乗せられるものもある。加えて、北欧ではヘルメットの使用は子供から大人まで全員に義務付けられているから、“ヘルメットヘア”など誰も気にしない。

確かに、一時停止で止まらないクルマの運転手を取り締まるのもお巡りさんの大事な仕事だ。でもママチャリに3人の子供を同時に乗せるお母さんを注意した方が、日本の未来にとってよっぽど有意義なのでは、と思うこともある。警察の取り締まりの優先順位がちょっとズレている。そう感じるのは、はたして私だけだろうか。

そういう意味では、日本の政府や警察は“賢い”。仮に、少子化が進む日本で自転車に乗る人全員にヘルメットの着用を義務づける法律を作ったら、今まで以上に日本の女性が子供を産み、育てるのが難しくなる。こうした状況を解決するには、根本的に社会の在り方を改革しなくてはならず、大変だからだ。

どうか誤解しないでいただきたい。私は日本が大好きだ。そうでなければ、30年も暮らしたりなどしない。この国が好きだからこそ、子供たちとその母親の安全を脅す“グレーゾーン”の実態を危惧せずにいられないのだ。

周りの歩行者やクルマなどにほとんど注意しないまま、大切な子供を乗せて平気で暴走するお母さんたちを見ていると心が痛む。この“ママチャリ問題”を警察にはもう少ししっかりと取り締まってほしいと願っている。──日本のさらなる少子化の進行を遅らせるためにも。


ピーター・ライオン◎モータージャーナリスト。西オーストラリア州大学政治学部 日本研究科卒。1983年に奨学生として慶應義塾大学に留学。Forbes、Car and Driver(米)、Auto Express(英)、Quattroruote(伊)などへ寄稿多数。ワールド・カー・アワード賞会長のほか、日本カー・オブ・ザ・イヤー賞選考委員を務めている。

文=ピーター・ライオン

この記事は 「Forbes JAPAN 100年「情熱的に働き、学び続ける」時代」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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