僕は恥ずかしながら、その時までムールにも旬があるということに考えを巡らせたことがなかった。まあ、確かに、それはあってしかるべきである。ただ、逆に言うと、この店ではそれだけムールにこだわっているということだ。そりゃ、うまいに決まっている。
あの味は、今でもたまに食べたくなる。ここの味を知ってしまうと、間違ってもパリでムールをオーダーする気など起こらない。がっかりするのが目に見えているからだ。味付けうんぬんではない。ムールそのものの味が違うのだ。鮮度のいいムールは、そこらへんで食べられるムールとは全く違う食べ物なのだ。
もちろん、うまいムールを求めてベルギーでも何軒かまわったことがあるが、オレロン島の味に敵うものはなかった。あのムールを食べるために、なんとかしてオレロン島に行く用事をつくらねばなるまいと心に誓っている。
マレンヌ同様、オレロン島もなかなか知られていないとは思うが、島には綺麗なビーチもあるし、潮が引けば海面から第二次大戦時の沈没船が顔を覗かせる。他にもマレンヌの近くにはロシュフォールやラ・ロシェル、ロワイヤンといった素晴らしい街がいくつもある。
オレロン島のビーチ(Getty Images)
ボルドーでレンタカーを借りれば、それらの街には2時間ほどでアクセスできるし、有名な観光地とはひと味もふた味も違ったフランスの一面を知ることができる。海外でレンタカーを借りるとなると、かなりハードルが高く感じてしまう人も多いだろうが、ぜひドライブに挑戦してみてはいかがだろうか。フランスは、大都市の街中を出れば、どこも車は少ないし、駐車場の心配もいらない。都内を運転するよりもずっと気が楽だと、僕は思うのだけれど。
連載:世界漫遊の放送作家が教える「旅番組の舞台裏」
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