カンカルで味わう牡蠣の醍醐味はこれだけではない。ひと通り牡蠣を食べ進め、ひと息つきながら遠くの海を眺めると、そこには見覚えのあるシルエットが浮かんでくる。そう、モン・サン=ミッシェルだ。ちょうどカンカルの街は、サン・マロ湾を挟んでモン・サン=ミッシェルの対岸にあたるのだ。
これは僕の好みの問題だが、モン・サン=ミッシェルは遠くから見たほうが、その美しさを堪能できる。さすがに、カンカルから眺めるモン・サン=ミッシェルはいささか小さすぎるが、それでもあの海に突き出た修道院を眺めながら牡蠣を食べると贅沢な気分になり、なんだか先ほどより美味しさが増したような気がする。
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カンカルは、パリからTGVでサン・マロまで出て、そこから車で30分ほど走れば簡単にアクセスできる。牡蠣を食べたら、そのままサン・マロやカンカルに滞在してもいいし、モン・サン=ミッシェルまで足を伸ばしてもいい。ブルターニュの気候や風土は独特のものがあるので、パリに飽きた人にもきっと満足してもらえるはずだ。
マレンヌの緑牡蠣
カンカルはカンカルで素晴らしい街なのだが、フランスで牡蠣と言えば、マレンヌも外すわけにはいかない。マレンヌをご存知の方がいらっしゃったらかなりのフランス通だが、マレンヌはボルドーの北西、シャラント=マリティーム県にある大西洋に面した、人口6000人ほどの小さな街だ。
マレンヌは、フランスで最も牡蠣の養殖が盛んなところで、街の入り口では、牡蠣を抱えた少年の像が出迎えてくれるほどである。南仏のマルセイユあたりで、いわゆる「シーフードプラッター」みたいなものを頼んでも、そこに載っている牡蠣はマレンヌ産だったりする。そもそもマルセイユのある地中海ではあまり牡蠣の養殖は盛んではないのだ。なので、フランスで牡蠣を食べるなら、南仏ではなく、やはり本場で味わうことをお勧めする。
ここマレンヌで獲れる牡蠣は「マレンヌの緑牡蠣」と呼ばれており、牡蠣の身が緑がかっているのが特徴だ。とはいっても、マレンヌ産の牡蠣の全てが緑がかっているわけではない。牡蠣を開けてみないと緑牡蠣かどうかわからないので、「緑牡蠣」としては売られていないが、マレンヌの市場で牡蠣を買うと、緑色っぽい牡蠣がたしかに紛れ込んでいる。
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僕も何回か緑牡蠣に当たったことがあるが、なるほど、普通のものよりもコクがあって、たしかに美味しい気がする。まあ、もともとの牡蠣が十分に美味しいので、緑色をしていなくてもとくに問題はないのだが、やはり緑牡蠣に当たると気分がいい。
マレンヌの牡蠣がなぜ緑色になるのかというのは、まだ完全には解明されていないという。しかし、マレンヌはカンカルとは違い、海ではなく牡蠣用のプールで養殖している。その養殖環境が影響しているのだそうだ。