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2019.06.28

1日20分、6週間で認知力アップ? 高齢ドライバー向け「脳トレ」アプリが完成

東北大学加齢医学研究所の川島隆太教授

高齢ドライバーによる事故が問題となっている。それにより、高齢者による運転免許証を返納する動きも相次いでいるという。ただ、移動手段に車が必要な地域の住民にとっては、車は生活の命綱でもある。

そんな中、「脳トレ」の川島隆太教授らが立ち上がった。高齢者運転者の運転技能・認知力がアップするトレーニングアプリとは?


まずは、この図を見てほしい。


文字の「意味」と「色」というふたつの情報が干渉し合う現象。これを、ストループ効果という。1935年に心理学者ジョン・ストループによって報告されたことでこう呼ばれることになった。人間は、意味と色が異なることを答えるとき、通常よりも時間がかかる。これを利用し、脳年齢チェックに採用したのが、川島隆太教授の名を一躍世に知らしめることになったニンテンドーDSの「脳トレ」である。

その東北大学加齢医学研究所の川島教授や、野内類准教授らを中心とする研究グループと、仙台放送が共同開発したのが「運転技能向上トレーニング・アプリ」だ。



使い方は簡単だ。自宅のテレビにセット、リモコンで操作する。標識に書かれた数字の大きい方を選択したり、(C)のように道路から出てくる人や物と、音符という複数の事柄に注意するゲームなどで構成されている。いずれもできるだけ素早く回答することが要求され、さらに、参加者の成績によってゲームの難易度が変化する。

仙台市や塩竃市、栗原市で、1日20分、6週間行なった実証実験では、同期間、他のゲームアプリを実施したグループよりも自動車運転技能と認知力(処理速度と抑制能力)とポジティブな気分(活力)が向上することが明らかになり、この結果は、2019年5月に学術誌「Frontiers in Aging Neuroscience」にも掲載された。

また、この開発アプリの効果に着目し、既に先行事例としてビジネスに導入している企業も数多くある。世界最大級の保険・資産運用グループ、アクサ生命保険がその1つだ。同社では全国営業店で開催する各種セミナーやイベントで実際にアプリを使用することにより、認知症リスクの啓蒙活動を実施し、顧客や顧客の家族に「健康で長生きする大切さ」を考える機会を提供する予定という。

私たちの情報を判断したり、記憶したりする認知能力(記憶力、処理能力、抑制能力など)は20歳をピークに加齢と共に低下しいくことが知られている。
ゲームを楽しみながら、自身の運転能力や認知能力、さらに活力気分を向上させることができるトレーニングアプリ。

今後、益々進む高齢化社会において、課題解決の一役を担うことができるのか、注目が集まっている。

文=賀陽照代/谷本有香

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