かつては空想の産物だった技術やアイデアが現実になりつつある今、それらの実用化が社会に混乱を起こすことを危惧する声もある。中でも、脳にインプラントを埋め込みコンピュータと接続する技術に不安を抱く人は多いだろう。
今年のトライベッカ映画祭で上映されたタリン・サザンとエレナ・ギャビー監督によるドキュメンタリー「I Am Human」(原題)は、脳インプラントをはじめとするニューロテクノロジー(神経科学を応用した技術)を題材とする作品だ。映画は神経疾患を抱える3人の患者——自転車事故で四肢麻痺になった患者とパーキンソン病患者、中途失明者——が治療と生活の質(QOL)向上のために最先端の脳神経手術を受ける過程を追う。
ニューロテクノロジーの進化は、2013年にオバマ元大統領が脳研究を推進する国家プロジェクト「BRAIN(Brain Research through Advancing Innovative Neurotechnologies)イニシアティブ」を発表した頃から、主要メディアでも大きく報じられるようになった。
同年、ヨーロッパとカナダの研究者による共同プロジェクト「BigBrain」が、人間の脳の超解像3Dモデルの作成に成功。近年では、イーロン・マスクをはじめとする起業家たちが、人間の脳とコンピュータの接続を研究する企業を立ち上げて話題を呼んだ。SF映画「トランセンデンス」の世界は決してフィクションではないのだ。
実際、「I Am Human」監督のサザンとギャビーは、脳にインプラントを埋め込んでいる人は現時点で世界に数十万人いると推定しており、その数は2029年までに3倍に増えると予想する。当分の間は、この手術を受ける人は映画に登場するような神経疾患の患者などに限られるだろう。だが、しばらく経つと、より速く走るため、より高くジャンプするため、悪習慣を断ち切るため、性格を改善するため、といった目的で広く使われるようになる可能性がある。