クライアントと強い意思を共有できているか?
「上質な広告には、形になる前からクリエイターと企業の間に揺るぎない同意があります。その広告を通して、消費者に何を感じてほしいのか。温かい気持ちを抱いてほしいのか、あるいは何かに対して怒りを感じてほしいのか。広告を作る前から、双方が強い信条を共有しているのです」
そしてこう続けた。
「カンヌライオンズを受賞するようなクリエイターたちは、そうした強い信条を企業と共有した上で、引き算をする過程を非常に大切にしています」
デジタル社会では情報はますます複雑になり、消費者が求めるものは年々変化している。ひとつの広告を作るために膨大な情報を集めて、そこからどう引き算ができるかが、広告業界のクリエイターの腕の見せ所だという。
フアンがこれまでのキャリアの中でもっとも印象に残っているのは、今年、アウトドア部門、エンターテインメント・フォー・スポーツ部門などで、グランプリを含む各賞を複数受賞した「ナイキ」が30年前から掲げている「Just Do It」というスローガンだ。
1988年、ナイキからCM制作の依頼を受けていたCMディレクターのダン・ワイデンがこの言葉を生むまでの過程を綴ったノートを目にしたことが、フアンが一流クリエイターの条件を語る上で欠かせない出来事のひとつとなっている。
「死刑囚が刑執行の直前に発した言葉から着想を得て生まれた言葉であることは有名な話ですが、Just Do Itという言葉が固まるまでにかかった日数は約6カ月。それまでに彼は2冊のノートを使ったそうです。ノートの前半には、We Must Do It…We Can Do It…などボツ案が並び、それを二重線でかき消した跡が残っていました。
Just Do Itはノートの最後にやっとでてきた言葉。フィクション映画なら、クリエイターがシャワーが浴びている最中に突然天才的なアイデアを思いついくシーンは成立しますが、現実社会ではそんなことは起こりません」