個の時代だからこそ「アーティストの声」に耳を傾けるべき理由

パリ20区にあるアーティスト向けレジデンス&スタジオ、ヴィラ・ベルヴィの前に立つピエール


コミュニティを意識し、一人ひとりのクリエイティビティを大切にするアーティストであるピエールが創設メンバーとして作り上げたArt Thinking Improbableには、クリエイティビティを3日間で発揮させるための仕掛けがいくつかある。「逸脱」や「破壊」「漂流」といったことを意識的に行い、自分で思い込んでいる壁を越えるワークショップである。その仕掛けを作った背景を、ピエールはこう語る。

「クリエイティビティをうまく発揮できずに困っている人に、良いツールを提供したいと考えてArt Thinking Improbableを作ったんだ。人びとのクリエイティビティを発揮させる役割を持つアーティストとして、環境もプロデュースしていかなければいけない」

ピエールの言葉だけを借りて「アーティスト」として総称で括り語るのはとても危険だと感じつつも、目先の利益や組織などにとらわれずに社会とつながり作品を生み出すアーティストの視点を借り、造形のスキルを学びながら社会との接点を作り直すこと。それは、企業人・学生・主婦・ホームレスなど様々なカテゴリーを外した、社会に属する人間一人ひとりに大切なことなのではないだろうか。

働き方や生き方が個性的であることが受け入れられやすくなった時代だからこそ、一人ひとりが「社会」との接点を考え直し、つながる意識が必要になる。

現代アーティスト、ピエールの言葉を聞きながら「社会」という単位で語ることが少ない日本の現状を変えていきたいと強く思う。「社会」は大きな単位なので我々では変えられないと思う諦めの気持ちから逸脱していきたい。

まだまだ手探りの状態ではあるが、これは「フランスだからできる」のではなく、日本にいても意識の向き先さえ変えればできることだ。そのためには、社会のルールや、「当たり前のこと」に疑いをもっている現代アーティストが作る作品やギャラリートークなどで発するメッセージを注意深く聞き、社会に属する我々一人ひとりが固定観念を変えていく必要がある。



私自身がArt Thinking Improbableを通してピエールや日本で一緒にワークショップを行っている、現代アーティストの長谷川愛氏やキュレーターの高橋裕行氏、メディアアーティストの藤幡正樹氏の作品や言葉に触れることによって、「当たり前のこと」を疑う視点がたくさん芽生えてきている。次回は日本の現代アーティストから学ぶ「当たり前のこと」を疑うためのコツをご紹介していきたい。

連載:ポリネーターが見る世界の景色
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文=西村真里子

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