個の時代だからこそ「アーティストの声」に耳を傾けるべき理由

パリ20区にあるアーティスト向けレジデンス&スタジオ、ヴィラ・ベルヴィの前に立つピエール


そんな彼の姿をみていると、私のなかの「アーティストは孤独な作業を行う人である」という固定観念が壊れていくのを感じる。

「Art Thinking Improbableのワークショップと同様、自分が信じている価値観が体現されているのが、このヴィラ・ベルヴィです。ここでは道具も空間もスキルもみんなで共有する。異なるバックグラウンドのアーティスト達が居て、地域コミュニティともつながる。モノを作ることが言語となり人とつながって行く場所なんです」とピエールは語る。


ヴィラ・ベルヴィを訪問した時には地域コミュニティの方々の作りかけの陶芸作品が並んでいた。


ピエールの作品。工業デザインを、アーティスト視点で逸脱させている。水・電気・ガスなど生活インフラを支えるエネルギーがあまりにも不安定であることを見るものに伝える。

そんな彼がArt Thinking Conferenceで紹介していたスライドには「La vie n’est pas une start-up, Life is not a Startup(人生はスタートアップではない)」と、グラフィティアーティストが描いた作品が示されていた。これに込められた、彼のメッセージはこうだ。

「スタートアップのムーブメントが世界中で起きていて、天才や、自己実現を成し遂げた成功者のストーリーが世界中に溢れています。それを見て、彼らは自分とは違う人間だと思うかもしれない。しかし、実は私たち一人ひとりにクリエイティビティは備わっていているのです。Art Thinking Improbableは一人ひとりの潜在的クリエイティビティを進化させていくことを目的としており、私はそれを支えるコミュニティ・メンバーの一員です」

創造性は一部の限られた天才に備わったものではなく、誰でもコツをつかめば潜在的な創造性を発揮できることができる。そのコツを教えてくれるのがArt Thinking Improbableであり、誰にとっても「平等」な機会なのだ。


天才のストーリーを追うのではなく、一人ひとりに宿るクリエイティビティを発揮させたいと語るピエール

ホームレスから政治家までつながる

彼は、なぜ現代アーティストになったのか。それは「アーティストであればホームレスから政治家までフラットに話ができる。社会のなかでアーティスト以上に多くのコミュニティに属せる存在はない」からだ。

今でこそ筆者は自分の会社を立ち上げ、様々な企業や組織にフラットにアクセスできるようになった。しかし、かつて大企業に勤めていたときには部署単位、会社単位、産業単位での様々な分断があり、”隣の島”にジャンプするにはなかなかハードルが高かったことを思い出す。

一方アーティストであるピエールは、企業人もホームレスも政治家も関係なく、様々な分野・領域を飛び越えて人々と関わり合いを持つ。「社会を自分ゴト化して生きるうえで、アーティストほど広く見渡せている立場はないのではないか」とピエールの言葉から感じる。
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文=西村真里子

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