個の時代だからこそ「アーティストの声」に耳を傾けるべき理由

パリ20区にあるアーティスト向けレジデンス&スタジオ、ヴィラ・ベルヴィの前に立つピエール

AIやロボットと共に生きる時代には人間は「ありえない」を生み出すエキスパートになる必要がある。それは、「ありうる」「予測できるもの」は人間以外のものが処理してくれるからである。

さて、この「ありえないもの」を生み出すためのワークショップArt Thinking Improbableのグローバルカンファレンス「Art Thinking Conference」が2019年5月にパリの現代美術館ポンピドゥ・センターとインキュベーション施設「104」で開催された。フランス、ドイツ、フィンランド、ノルウェイ、イギリス、アメリカ、日本など世界中で当ワークショップに従事するものが50名ほど集い各国の状況などをシェアした。(前回記事はこちら

2日間のディスカッションを重ね、3日目にはギャラリー・ウィークエンドと共同企画でパリに点在する50軒ほどのギャラリー訪問を行い、最後に教育・科学・文化の国際連合専門機関UNESCOでカクテル・パーティーを行うスケジュールだった。

そこで多様なアーティストやアート作品に触れて、改めて「ありえない」を生み出す視点・動機を得るためにはアーティストの協力が必要であることを感じた。

Art Thinking Improbableワークショップを支える現代アーティストが何を思い、このワークショップを作り、育てているのか。今回の記事ではArt Thinking Improbable創設者の一人、現代アーティストのピエール・テクタン(Pierre Tectin)にフォーカスする。

人生はスタートアップじゃない

Art Thinking Improbableの創設メンバーは、フランス老舗ビジネススクールのESCP准教授シルヴァン・ビュローと現代アーティストのピエール・テクタンの2名。つまり、ビジネスサイドの教授とアーティストが、アート思考スクールを作ったのだ。

現代アーティストのピエールは、パリのヴィラ・ベルヴィというアーティスト・レジデンシーで、石膏と既存の工業製品や中古品をもとに作品を仕上げている。

彼が所属するヴィラ・ベルヴィはアーティスト・レジデンシーとして長期滞在の方と短期滞在の方がいるのだが、チーズ工場をリノベーションした巨大な空間に彫刻、絵画、版画など様々な手法を持ったアーティストが滞在しているため、お互いのスキルを共有しながら作品を作るのもヴィラ・ベルヴィの特徴である。


ヴィラ・ベルヴィの中。もともとチーズ工場だったところをパリ市が買取り、アーティストに提供している。
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文=西村真里子

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