しかし、2004年にバーチがブランドを立ち上げた頃、世間が女性起業家に向ける目は冷たかった。「すぐに撤退すると思われていた」と、彼女は先日開催されたフォーブスの女性サミットで述べた。
「いつも“女性CEO”って紹介されるのが嫌だった。世の中に“男性CEO”っていう言葉があるかしら」
自身がビジネス現場での男女の不平等を実感したバーチが称賛する人物の一人が、2012年に自伝「賃金差別を許さない! 巨大企業に挑んだ私の闘い」を出版した、リリー・レッドベターだ。
アラバマ州のグッドイヤーの工場で19年に渡り働いていた彼女はある日、匿名のメモ書きを受け取った。そこには、彼女の給料は同じポジションの男性と比べて35〜40%も低いと書かれていた。
「これは自分だけでなく、社会全体の問題だ。賃金の平等は家族の暮らしを支えるものだ」
レッドベターは会社を相手取った裁判を起こした。一審判決で裁判所は会社側に損害賠償の支払いを命ずる判決を下したが、グッドイヤー側が上訴し、連邦最高裁は2007年、こうした提訴は「賃金が最初に支払われた日から6ヶ月以内に提訴しなければ無効」と判断し、レッドベターは敗訴した。
しかし、その後も法廷闘争を続けた彼女は、2009年になってようやく勝利をつかむことになる。バラク・オバマが大統領就任後の最初の法律として、賃金の平等を定める法律「リリー・レッドベター平等賃金法案」に署名したのだ。
レッドベターは彼女の行動が一定の成果をあげたことは認めつつも、「闘いは続いている」と述べている。男女間の賃金格差の問題は、まだ解消していない。
バーチも同じ意見だ。「世界の人口の50%が女性なのに、なぜこの問題が残り続けているのか、理解に苦しむ」
バーチは2009年に女性起業家の支援に特化した財団「Tory Burch Foundation」を設立し、今年3月にはバンク・オブ・アメリカから1億円の支援金も獲得した。同財団はこれまで2500人以上の女性起業家たちに対し、合計5000万ドル以上の融資を行っている。
「資金援助を行うことで女性の起業が促進される。多くの女性たちが自身でビジネスを立ち上げて、大企業の差別的な賃金制度から解放されている」とレッドベターは述べた。
数十年におよぶ運動を通じ、レッドベターは彼女の決意を固くしている。「平等な賃金を実現するためには、全ての女性が意志を表明することが大切だ。私たちは共に闘わねばならない」と彼女は続けた。