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金融業界とは無縁の彼らではあったが、全員が共通して関心を持つものが一つ。ハヤテの持つ「プライベート・データ」である。「興味深いデータさえあれば、解析の対象はなんでもいい」とさえ話すのは、水産研究・教育機構の中山新一朗(39)だ。

「データは非常に大事です。例えば水産のデータは、漁業者の方々や研究者が苦労して取ってきてくれた生の情報。データとは、そういう重みがあるもの。きれいな形である程度のデータが蓄積されていて、それを使わせてもらえるのはものすごく魅力的」

東京大学大学院で助教を務める史 蕭逸(30)もハヤテのデータは「非常に稀有」と同意する。

「昨今、ディープラーニングが流行っていますが、手法が先んじていて医療を含めて肝心のデータが間に合っていない。目的がなく、ただ取得しているだけのデータは往々にして使えません」

その点、ハヤテのデータは詳細かつ使用目的が明確だ。株価とは情報にもとづいて売買されるもの。情報が結果とリンクしている。満足度調査のような曖昧なデータとは根本的に質が異なるのだ。

初めは、「機械学習を使って業務の効率化を図る」というありがちなアイデアから始まった。ところが議論が進むうちに、ハヤテのコアアセットが見えてくる。杉原がアナリストたちと交わした議論の過程、そして彼がCIOとして決断を下すまでの“思考の経路”だ。これを言語化・可視化できれば、「投資判断」の仕組みが見えてくるのではないか。

理化学研究所・革新知能統合研究センターの阿部真人(34)は、ハヤテの仕組みがアナログではあるが、数値化できていないだけだと感じた。

「明確な哲学とルールがあると知り、それなら数理モデルや統計で解析できることもあるのでは、と考えるようになりましたね」

ボットやデータベースなどのプロダクトを通じてその再現性を担保し、哲学やルールに沿った意思決定を支援できれば、アナリストたちの投資アイデアも増え、リターンは安定する。さらに、ヒトの意思決定のエッセンスを解明できれば、その汎用性は高い。自分が何を求めているか、希望や選択が明らかになれば誰もが使いたくなるはず。理論的には、グルメサイトや婚活サイトにも実装できるかもしれない。企業経営も選択と意思決定の連続であると言えるなら、コンサルティングエンジンを作り、コンサルティングファームへ進化することもありえる。

安島と木野はこの仮説を実証したいと考えている。それができれば、ハヤテの事業領域は広がる。それも慣れない事業に手を出す多角化でも、単純なホールディングス化でもなく、独自のアセットを活用した新規事業が生まれる可能性があるのだ。


ハヤテインベストメント CEO(最高経営責任者)兼CIO(最高投資責任者)、杉原行洋

片や、杉原はそこにこそ金融業界の課題を解決するカギがあるかもしれない、と考えている。彼は以前から自分自身の投資判断を「言語化」できていないことが気になっていた。

「例えばウォーレン・バフェットやビル・グロスの意思決定プロセスについては彼らにしかわかりません。天才が天才たる所以ですが、その結果、カリスマファンドマネジャーに依存する業界になってしまった。投資手法を言語化できていないから教育プログラムもなく、ファンドマネジャーが育つことはあっても育てることはできない」

後進の育成ができない業界に未来はない。そういう問題意識が杉原にはあった。もし投資手法を言語化できれば、教育にも使える。金融産業の寿命を伸ばすどころか、人間の未知の領域を逆説的に明らかにできれば、新たな産業を創出できるかもしれない。かくして生まれたのが、異能集団が集まる「7 SIGMA PROJECT(セブン・シグマ・プロジェクト)」だった。

文=井関庸介 写真=Shoko Takayasu

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