実際、ここ数年の過去音源の再評価は「アーカイブ漏れ」から起きています。
日本産の音楽では、先の「シティポップ」に続く形で再評価を得ているのが「環境音楽」。シアトルのレーベルからリリースされた「KANKYO- ONGAKU」というコンピレーション・アルバムが話題になっていますが、細野晴臣さん、久石譲さん、INOYAMALANDなど、日本の80〜90年代の音源に対し、主に欧米の視点から新しい評価が加えられました。その評価はさらに次世代の作り手を刺激し、新しい価値観を生んでいます。ちなみに最近、日本のレコード店で見かける外国の方々は大体、この辺りをディグしています。
アーカイブから「漏れ」たコンテンツが価値を生む。その動きは音楽だけにとどまりません。
例えば「日本ワイン」。日本国内で栽培されたぶどうを100%使用して日本国内で醸造されたワインが、ここ最近「日本ワイン」と呼ばれ親しまれていますが、起源から100年以上世界のワインアーカイブからは「漏れ」た存在でした。それが10年に、日本の固有品種「KOSHU」が欧州でワイン醸造用の品種として登録されたり、「デキャンター・ワールド・ワイン・アワード(DWWA)」を受賞したり……をきっかけにアーカイブ入り。
日本固有の「甲州種」。2010年にOIV(国際ブドウ・ワイン機構)のぶどう品種リストに登録。
今や、日本ワインは世界的なブームの兆しがあるのです。2018年9月には、第1回日本ワイナリーアワードが行われ、日本のワイナリーの格付けが発表されるなど、意識的なアーカイブ化も進んでいます。
好きなジャンルから事例をもう一つ。ボードゲームの領域でも同様に「漏れ」が価値を生んでいます。世界最大のアーカイブサイトBGGでは、ここ数年、「Love Letter」「Machi Koro」などの作品を筆頭に、これまでアーカイブから「漏れ」ていた日本産のボードゲームが評価の対象として認識され始めています。日本最大のイベント「ゲームマーケット」にも「アーカイブ漏れ」目当てのバイヤーが各国から集まるようになってきました。
ネット社会になって久しく、目の前には常に膨大なアーカイブが溢れている昨今ですが、全ての事象がオンライン上でアーカイブ化されているわけではありません。私たちは忘れがちです、大体が、まだ「漏れ」ていることを。
だからこそ、目の前にすでにアーカイブ化されているコンテンツのみではなく、アーカイブから「漏れ」ている事象にワクワクし目を向けてみる。もしかすると、新しい価値を掴む一歩になるかもしれません。
電通Bチーム◎2014年に秘密裏に始まった知る人ぞ知るクリエーティブチーム。社内外の特任リサーチャー50人が自分のB面を活用し、1人1ジャンルを常にリサーチ。社会を変える各種プロジェクトのみを支援している。平均年齢36歳。合言葉は「好奇心ファースト」。
木村年秀◎電通Bチーム「MUSIC」担当。電通第2CRP局クリエーティブディレクター。2016カンヌライオンズMUSIC部門審査員。2017ADCグランプリ等。アナログフェチ。レコードコレクター。ボードゲームアディクト。ポストカードラバー。a.k.a. DJ MOODMAN。