サンフランシスコに拠点を置くビジネス・チャットツールの米スラック・テクノロジーズが6月20日、ニューヨーク証券取引所に直接上場した。今年4月に上場した音楽配信サービスのスポティファイと同じ手法による上場だ。
新規株式公開(IPO)とは異なり、上場時に新株を発行せず、同時に売り出す株の数を制限しない直接上場には、引受証券会社に支払う手数料(調達金額の7%程度)を抑えられるという利点がある一方で、新たな投資家を十分に集めることができないリスクが伴う。
こうした手法で上場を果たしたスラックの株式は、現時点では以下の4つの理由から、買うべきではないと考えられる。
1. 売上高の伸びが鈍化している
同社の売上高は昨年、およそ4億50万ドル(約430億円)となり、前年比82%の増加を見せた。だが、今年第1四半期(4月30日まで)には同67%増の1億3480万ドルとなり、成長は減速している。
同社はビジネスモデルとして、少数のユーザーだけが料金を支払う、いわゆるフリーミアム(Freemium、基本的なサービスや製品は無料で、その他の機能のみ課金する)を採用している。
上場前に公表された目論見書では、少なくとも3人のユーザーがいる顧客企業は60万以上とされていた。だが、有料プランに加入しているユーザーは、今年第1四半期の時点で9万5000社だ。さらに、年間売上高が10万ドルを超えるユーザーは、このうち645社にとどまっている。
2. 採算が取れない
スラックが採算の取れる企業になる可能性は、ほとんどない。昨年の損失額は1億3900万ドル。今年第1四半期には、3840万ドルの損失を計上した。これは、売上高の28%に当たる金額だ。
筆者の考えでは、スタートアップは4つの段階を踏んで規模を拡大していく。だが、最近では多くの企業が、第2段階にあたる「スケーラブルなビジネスモデルを確立する」を飛び越えて、第1段階の「最初の顧客を獲得する」から3番目の段階である「(資金の)流動性向上に向けた全力疾走」に進んでしまう。
スラックは明らかに、そうした企業の1社だ。同社が売上高の伸びをこれ以上鈍化させないために多額の現金を使いながら、スケーラブルなビジネスモデルを構築することは困難だと考えられる。