まだまだ保守派が強いアメリカ
米国の30州が法律上、中絶を禁止している。福音派を中心に宗教保守派が強いという背景がある。いまだに、多くの女性が自らの選択で中絶ができない、悲しい現実がある。
日本では、1948年に優生保護法が成立し、中絶に関しては日本の女性の権利が守られ自由で、生きやすい国だといえる。
アメリカは1973年に連邦最高裁判決で「中絶は女性のプライバシー」が認められた。これは日本の優性保護法が認められた25年後のことである。それをまたもや宗教保守派が変え、逆戻りしようとしているのが、今のアメリカだ。
また、ゲイ問題も後戻りしそうだ。2017年にはトランプ大統領が「トランスジェンダーのアメリカ軍での勤務を禁止する」と発表。また、今年の5月22日にはアラバマ州で1996年から続いている「Arthur」という子供向けのアニメ番組の放送が中止された。
この日のエピソードはゲイカップルの結婚式だったからだ。この州ではゲイ同士の結婚が認められていない。アラバマ州は5月に、全米で物議を醸した「妊娠中絶禁止法」を成立させた超保守的な州として知られる(「妊娠中絶禁止法」については、機会を改めて取り上げたい)。
アメリカに住んでわかったのは、私が知っていたアメリカは西海岸と東海岸の都市部から発信されていた情報だったということだ。本当のアメリカは宗教心が強く、もっと複雑で保守的だ。
それを裏づけたのは言うまでもなく、2016年のトランプ大統領の誕生だった。トランプ政権の登場は、中西部や南部の根強い保守派の力の大きさをまざまざと見せつけた。「もうひとつのアメリカ」は、リベラルエリートがマジョリティーではないことを明らかにしている。
トランプ大統領の支持率は、好調な経済を背景に決して高くはないものの根強いものがある。トランプ大統領は就任後、アメリカの政治を左右するような重要な判断を下す連邦最高裁判事の人事で、保守派を2人指名した。そのため、9人いる連邦最高裁判事の構成は保守派がリベラル派を上回り、国民皆健康保険、銃規制、LGBTQ、中絶、人種差別の解消など、リベラル派が勝ち取った様々な政策が後退するのではないかという大きな危機感が生まれている。