サンフランシスコの当たり前「男女共用トイレ」は快適そのものだ

(左)皮膚科のドクターオフィス(右)Paris Baguette店 以前は男性トイレだった(いずれも筆者撮影)


「トイレの共用」が法によってできない州もある

トイレの男女共用化についても、全米で行われているわけでは決してない。まだまだ保守的な州が根強く残っている。

記憶に新しいのはノースカロライナ州である。

2016年、ノースカロライナ州で「ハウスビル2」という州法が成立した。この法律は、出生証明書の性別を基にトイレ使用を義務付けるものだ。つまり、トイレの使用を「体の性」に応じてトイレを使用することを法制化したのである。

そのため、心と体の性が一致しないトランスジェンダーは自認の性とは別のトイレを使わなくてはいけなくなったのである。全米でこの法律に反発する声が上がり、社会的問題になった。

当時のオバマ政権はLGBTQに寛容な政策をとっていたので、「州法は違憲」であると撤回を要求して提訴したため、全米を巻きこむ問題になった。州法成立当時の共和党知事は2016年の州知事選で敗北したが、いまだにこの問題は解決してない。

「みんなのトイレ」は男女が一列に並ぶ

私の友人にトランスジェンダーの人がいる。男性として生まれ、性自認に応じて女性になった人だ。彼女は身長が180センチあり、一見、後ろ姿は男に思えるが、顔が美しい。50歳になるのだが、肌もきれいでシミ、しわもなく、瞳が美しい。彼女は私に時々「肌の手入れは怠ってはダメよ」「直射日光は敵」「女は50歳を過ぎたら、化粧品に投資しなくてはね」などとアドバイスをくれる。彼女と話すときは、男だと思って話したことはない。

以前、彼女に生活する上で何に困っているかを聞いた。すると彼女はすかさずこう答えた。

「それはもちろん、公共でのトイレ。『あの人、男のトイレに入るか、女のトイレに入るかで、正体がわかるぞ』って背後で言っているのが聞こえてくるし。どっちに入るか、周囲の目がいつも自分に注がれる。それを一番感じるのはトイレを選ぶ時かな」

私が男女共用トイレを使い始めたころ、彼女の言葉がいつも心をよぎった。自分では女性だと思っても、男性用トイレを使わなければならない理不尽さといつも葛藤しなければならない──そう思うと、トイレをめぐる議論は、アイデンティティに関わる問題にまで発展する。

私がよく買い物に行くスーパーチェーン「トレーダー・ジョーズ」も数年前から男女共用になった。それまで左側が女性用だったので待っていたら、中から男性が出てきてビックリした。「この人、間違って入ったのかな」としげしげと見ていると、後ろの男性が「サイン見た?」と指をさした。よく見ると表示が「男女共用」に変わっていた。
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文=アントラム栢木利美

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