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2019.06.26

手術ロボ「ダ・ヴィンチ」の独占市場は終わり、熾烈な競争へ

インテュイティブサージカルCEO ゲイリー・グットハート

ゲイリー・グットハートの好奇心に火をつけたのは、ラットの大腿動脈だった。当時、スタンフォード大学から独立した研究所の新人研究員だったグットハートは、手術支援ロボット研究室に配属された。そこで、切断されたラットの動脈をまずは手で、続いて試作品ロボットを使って縫合してみるように言われた。

「手術では、術者はこんなことをしなければならないのか」と思ったと、グットハートは振り返る。「面白くて重要な、そして同時に非常に難しい課題に思えました。それですっかり夢中になってしまったんです」。

それから3年後の1996年、グットハートはインテュイティブサージカルというスタートアップで働いていた。インテュイティブは先述の研究所であるSRIインターナショナルから技術のライセンス供与を受け、98年にブランド名「ダ・ヴィンチ」という手術支援ロボットを発売。ダ・ヴィンチは、iPhoneが携帯電話の利用を一変させたのと同じように、手術のあり方を大きく変えることになった。


20年にわたり市場を独占してきたインテュイティブ。昨年は19%増となる37億ドルの収益を上げている。

今日では、5000台近いダ・ヴィンチが手術室に導入されており、年間100万件の手術に使用されている。インテュイティブはハイテクバブルが最高潮に達した直後の2000年に上場したが、それでもなお、同社の株は新規株式公開時の17倍の値をつけて00年代を終えた。なぜだろうか?

それは、これまでは業界を独占してきたからだ。ダ・ヴィンチの値段は1台約150万ドル。さらに、手術1件当たり約1900ドル分の交換部品を販売している。30%という同社の売上純利益率は、マイクロソフトをしのいでいる。

ピッツバーグ大学医学部の泌尿器学助教授、ベン・デイビース博士は、この10年、毎週6、7件執刀している前立腺切除手術でダ・ヴィンチを使ってきた。このロボットが登場する以前は、非常に侵襲性の高い開腹手術が行われていたため、前立腺切除は厄介だったと語る。

前立腺の周囲の器官は繊細で、細心の注意を払って切開しなければ、大量の失血を招くことにもなりかねないという。ダ・ヴィンチを使ったロボット支援下では、外科医は患者の体内に設置されたカメラから送られてくる映像を見ながら、精密な制御装置を操作して手術を行う。失血は「微量だ」とデイビースは言う。

53歳のグットハートは10年からインテュイティブの最高経営責任者(CEO)を務めており、3億1500万ドル相当の同社の株と購入権を蓄えている。しかしこれからの道は厳しさが予想される。インテュイティブの8倍の売り上げを誇る医療機器メーカーのメドトロニックと、ジョンソン・エンド・ジョンソンとアルファベットの共同事業であるバーブ・サージカルが、来年、手術支援ロボット市場に参入する見通しだからだ。
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文=ミッチェラ・ティンデラ 写真=ティモシー・アーチボルド 翻訳=木村理恵

この記事は 「Forbes JAPAN 100年「情熱的に働き、学び続ける」時代」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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