テクノロジー

2019.06.23 13:00

天才はこうして誕生した 市民とともに腕を磨く若き科学者

(左)UIデザイナー・本多達也 (右)京都大学白眉センター特定准教授・榎戸輝楊

Forbes JAPAN 6月号では、“100年「情熱的に働き、学び続ける」時代”と題した特集を掲載。そのなかで、気鋭の変革者たちがどう学び、働き、人間関係を築きながら進化を繰り返しているのかを探った。そこで露わになったのは、ユーザーや市民と共に自分を磨き、未来を拓く姿だった。


「すぐ人に聞いちゃいます」

出会いから「学び」を発見して「聞く」。UIデザイナー本多達也は、富士通で髪の毛への振動と光で音をフィードバックする音知覚装置「Ontenna」開発プロジェクトを率いる。


30dBから90dBの音を256段階の振動に変換する音知覚装置「Ontenna」。ヘアピンのように髪に装着できる。音に合わせて光るため、周囲の人とも音の有無をシェアできる。

自称「人を楽しませることが好き」。そんな本多の学びは、常に出会いと共にあった。始まりは偶然だった。大学の学園祭で、年配の聴覚障がい者に道を聞かれた。のちに同居人となる彼は、聴覚障がい者を支援するNPO法人の会長だった。

ここからが本多らしい。初対面、かつ耳が不自由な相手と一瞬で打ち解け、週1で温泉に行くほどの仲になったのだ。この出会いを機に、手話通訳のボランティアや手話サークルの立ち上げ、NPO法人の運営などを始めた。これらの活動で得た人間関係や学びが、後のOntenna事業へとつながっていく。

UIデザイナーという仕事を知ったのも偶然だ。アルバイト中に、開発の恩師となる岡本誠に出会った。当時、岡本は本多が通う大学で、視覚障がい者向けのUIを手がけていた。レーザーで対象との距離を測り、近づくと指が曲がる装置だ。

「面白い!」。その勢いで岡本の研究室に入り、聴覚障がい者向けの製品開発プロジェクトを立ち上げた。カウンターパートになったのは、くだんの温泉仲間だ。製品の着け心地や装着場所など、逐一意見を仰ぎながら開発を進めた。大学院時代には、彼の自宅に居候するという「離れ業」まで繰り出す。

「自分で学ぶというのが苦手なんですよね。知りたいことがあると、すぐ人に聞いちゃいます。『これ、どう思います?』とか『教えて!教えて!』とか」

大学院2年目には、経済産業省所管の独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が主宰する「未踏プロジェクト」に応募した。ここでも本多は、産学界で活躍する巨人たちから助言を受けまくる。

「ある一定のレベルまでくると敵わない人ばかり。だったら、その人たちの力を借りたほうがいい」

富士通に入社してからも、学び方に変わりはない。今、本多が最も力を入れるのは実証実験だ。様々な場所で実験を繰り返し、ユーザーの意見を取り入れながらコンセプトと製品の改良を続ける。

ろう学校では、Ontennaを着けるとリズムを取りやすくなるとわかった。タップダンスのイベントでは、聴覚障がい者のみならず健聴者や外国人、ALS患者も一緒に音と振動の連動を楽しめると学んだ。

「振動はノンバーバルで、言語などに依存しないと改めて気づいた。Ontennaがあることで、いろんな人と面白さや感動を共有できる場面を増やしたい」


本多達也◎1990年、香川県生まれ。公立はこだて未来大学在学中に、聴覚障がい者と共同で新しい音知覚装置「Ontenna」の研究・開発を始める。2014年には同プロジェクトが評価され、独立行政法人情報処理推進機構が主宰する「未踏スーパークリエータ」に選出。大手メーカー勤務を経て、16年から富士通で研究開発を進める。
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文=瀬戸久美子 写真=武 耕平

この記事は 「Forbes JAPAN 100年「情熱的に働き、学び続ける」時代」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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