「すぐ人に聞いちゃいます」
出会いから「学び」を発見して「聞く」。UIデザイナー本多達也は、富士通で髪の毛への振動と光で音をフィードバックする音知覚装置「Ontenna」開発プロジェクトを率いる。
30dBから90dBの音を256段階の振動に変換する音知覚装置「Ontenna」。ヘアピンのように髪に装着できる。音に合わせて光るため、周囲の人とも音の有無をシェアできる。
自称「人を楽しませることが好き」。そんな本多の学びは、常に出会いと共にあった。始まりは偶然だった。大学の学園祭で、年配の聴覚障がい者に道を聞かれた。のちに同居人となる彼は、聴覚障がい者を支援するNPO法人の会長だった。
ここからが本多らしい。初対面、かつ耳が不自由な相手と一瞬で打ち解け、週1で温泉に行くほどの仲になったのだ。この出会いを機に、手話通訳のボランティアや手話サークルの立ち上げ、NPO法人の運営などを始めた。これらの活動で得た人間関係や学びが、後のOntenna事業へとつながっていく。
UIデザイナーという仕事を知ったのも偶然だ。アルバイト中に、開発の恩師となる岡本誠に出会った。当時、岡本は本多が通う大学で、視覚障がい者向けのUIを手がけていた。レーザーで対象との距離を測り、近づくと指が曲がる装置だ。
「面白い!」。その勢いで岡本の研究室に入り、聴覚障がい者向けの製品開発プロジェクトを立ち上げた。カウンターパートになったのは、くだんの温泉仲間だ。製品の着け心地や装着場所など、逐一意見を仰ぎながら開発を進めた。大学院時代には、彼の自宅に居候するという「離れ業」まで繰り出す。
「自分で学ぶというのが苦手なんですよね。知りたいことがあると、すぐ人に聞いちゃいます。『これ、どう思います?』とか『教えて!教えて!』とか」
大学院2年目には、経済産業省所管の独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が主宰する「未踏プロジェクト」に応募した。ここでも本多は、産学界で活躍する巨人たちから助言を受けまくる。
「ある一定のレベルまでくると敵わない人ばかり。だったら、その人たちの力を借りたほうがいい」
富士通に入社してからも、学び方に変わりはない。今、本多が最も力を入れるのは実証実験だ。様々な場所で実験を繰り返し、ユーザーの意見を取り入れながらコンセプトと製品の改良を続ける。
ろう学校では、Ontennaを着けるとリズムを取りやすくなるとわかった。タップダンスのイベントでは、聴覚障がい者のみならず健聴者や外国人、ALS患者も一緒に音と振動の連動を楽しめると学んだ。
「振動はノンバーバルで、言語などに依存しないと改めて気づいた。Ontennaがあることで、いろんな人と面白さや感動を共有できる場面を増やしたい」
本多達也◎1990年、香川県生まれ。公立はこだて未来大学在学中に、聴覚障がい者と共同で新しい音知覚装置「Ontenna」の研究・開発を始める。2014年には同プロジェクトが評価され、独立行政法人情報処理推進機構が主宰する「未踏スーパークリエータ」に選出。大手メーカー勤務を経て、16年から富士通で研究開発を進める。