これらの音は、私たちに対する何かのサインだ。チャイムが鳴れば玄関まで人を迎えにいき、赤ちゃんが泣けば問題はないか様子を見に行く。滅多にないが、火災報知器が鳴れば命の危険を察知して安全を確保する。
しかし、聴覚障害者にとってこれらのサインは意味をなさない。そこでアメリカのテクノロジー企業ワビオは、聴覚障害者のためにこれらの音が彼らにサインとして届く世界で初めてのスマートホーム型聴覚機器を開発した。その名も「シーサウンド」だ。
シーサウンドは家のコンセントに差し込み、Wi-Fiに繋ぐだけだ。例えば、赤ちゃんの声が別の部屋から聞こえたとすれば、その声を「赤ちゃんの泣き声」だと瞬時に判断し、聴覚障害者のスマホに知らせる。「注意:廊下で赤ちゃんが泣いているようです」と表示される。
ワビオ
同じようにドアチャイムが鳴れば、「注意:ドアチャイムがなっているようです」と表示される。このデバイスは、75種類の音を瞬時に判別できる点で優れている。
今までの聴覚障害者に向けた商品は、火災報知器用、ドアチャイム用、赤ちゃんの泣き声用など、音の種類に合わせて存在していた。しかし、シーサウンドは1台で様々な音を知らせることができる。
では、なぜ今までこの機械が発明されてこなかったのか。それは機械学習のために何百万という音を読み込ませる必要があったからだ。その膨大な量を考えると、「不可能」の文字が頭をよぎる。
ワビオのメンバーはあることに気づく。多種多様な音を流し続けるメディアが目の前にあることを。それがユーチューブだった。
200万以上の動画から音を機械学習させ、カテゴリー分けをした。例えば「叫び声」というカテゴリーには約4000のサンプルが記録されている。それらを組み合わせ、合計で75のカテゴリーに分類された。まだ社員も少ない中で、誰もがアクセスできるユーチューブを利用して機械学習させるという「閃き」がまさにイノベーションだ。
このシンプルな方法で、アメリカにいる900万世帯の聴覚障害者が安心して暮らせるようになるだろう。
カンヌライオンズ、イノベーション部門グランプリを獲得して歓喜する関係者
シーサウンドは、今年で66回目を迎えるカンヌライオンズのイノベーション部門で、グランプリを獲得した。同部門のビル・ヨム審査委員長は、「この作品は最も度胸があり、そして最もシンプルなソリューションを提供しました。機械学習の技術をクリエイティブな方法で利用したことも非常に素晴らしい。少ないリソースの中、ユーチューブを『ハックする』ことで聴覚障害者の命を救いました」とコメントした。