無能だった私を変えてくれた凄い人たち──元プロ野球選手 関根潤三さん 二刀流の元祖から学んだユーモアと美学

解説者時代の関根さんです。お人柄が滲み出ています。

このコラムでは、私の仕事の仕方、向き合い方を根本から変えてくれた恩人を紹介します。業種は違っても、何かを極めた一流の人たちの言動は、きっと、皆さんの仕事に役立つこともあると思います。

今回、ご紹介するのは、プロ野球で選手・監督として活躍され、プロ野球解説者として親しまれてきた関根潤三さんとのエピソードです。

関根さんは、プロ野球選手として史上初めて、オールスター戦に投手としても野手としてもファン投票で選出された人です(現MLBエンゼルスの大谷翔平さんは2人目)。現役時代には、投手として65勝、打者として1137安打を記録しています。その後、大洋ホエールズ(現横浜DeNAベイスターズ)とヤクルトで監督をされて、ベテラン解説者としてプロ野球ニュースなどで人気がありました。

当時の私は、電通に入社して2年目。CM女王だった鈴木蘭々さんが主演していた東洋水産のホットヌードルのテレビCMの撮影で、関根さんとお会いしました。

CMの企画内容の説明と衣装の採寸のために、関根さんの世田谷のご自宅に呼ばれました。現在ほどプライバシーが叫ばれている時代ではありませんでしたが、初めて仕事をする知らない人たちを自宅に招く有名人は滅多にいませんでしたので、ちょっと驚いたのを覚えています。

関根さんは、テレビを通して見ていたイメージそのままの柔らかいキャラクターで、立場が一番下だった私に対しても気さくに話しかけてくれました。
 
当時のテレビ地上波のプロ野球中継は、巨人戦ばかりで、関根さんが監督をしていた時のヤクルトが弱かったので、「関根ヤクルトは、巨人にはわざと負けている」と言われたりもしていました。
 
打ち合わせを終えて、雑談をしている時に、「あくまでも、ジョークですよ」という雰囲気を漂わせながら、そのことを訊ねました。

「ヤクルトの監督の時には、“関根さんは、わざと巨人に勝たせている”と言われたりしていましたが、本当はどうだったんですか(笑)?」

一瞬、間が空きました。関根さんは鋭い目つきになりましたが、笑みは崩さずにこう答えました。

「……そんなことはね、まったくないんだよ。プロだから、どの試合も勝とうと全力でやってるんだよ」
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文=松尾卓哉

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