ビジネス

2019.06.21

「猥談バー」も支援 リブセンス桂大介が、投資ではなく「寄付」を続ける理由

佐伯ポインティとリブセンス桂大介


たしかに、スケールする事業とはそれだけニーズがあるということで、言い換えれば誰もが投資をしたくなる事業。桂氏が目をつけるのは、こうした既存の仕組みに合いづらい起業家たちだ。

これまで出資をしてきたのも、移動住居を制作するDADAや、発達障がい児を支援するBranch、継続支援のためのプラットフォーム「ビスケット」を運営する祭などで、結果として成長する可能性は当然あるが、当初から利益を目的にした“寄付”は一切ない。たいていの事業は市場規模がわからないものばかりで、これだと投資目的では資金を集めるのは難しいかもしれない。

寄付を受ける佐伯氏も、「スケールしたい気持ちよりも、こんな未来になったら面白いなということばかり考えます。自分の作り出した事業がなくなるのは悲しいので、面白さと売上を両立する、赤点をとらないような経営をしていきたいと思います」と語る。

そもそも売却も上場も選択肢の一つでしかない

桂氏は、投資先からの相談には乗りつつも、基本的に経営には関与しない。「投資先の会社にどうなってほしいかといった個人的な想いは一切ない。伸びたら伸びたでうれしいが、必ずしも成長は求めない。ポインティは社会のタブーとして扱われていた性の話題、つまり社会に対して一石を投じている存在で、それだけでも寄付の価値があります。投資のような会社と会社の関係ではなく、人間として向き合っているような印象」というのが桂氏のスタンスだ。

対する佐伯氏も「投資家の方も含めて、株主と経営者という関係を感じたことはあまりないですね。同じ価値観を持つサークルの先輩のような印象。利害関係なく相談できる心地良い関係性です」という。

冒頭でも述べたように、スタートアップを取り巻く環境が徐々に良くなっていくに従い、資金調達をし、事業を成長させやすい土壌はできてきた。しかし、すべての起業家が短期的に事業をスケールさせたり、上場を考えているわけではない。

桂氏も「スタートアップ界隈にいると、イグジットが当たり前の感覚になるが、決してそんなことはありません。株式会社のいいところは売却や株式公開、自社株買いなどいろんな選択肢があることで、自分にあった企業のあり方を考える方が重要です」と警鐘を鳴らす。
今後も、桂氏のような価値観の合う投資家と起業家が出合い、これまで以上に自由な発想のビジネスが生まれてくる可能性は高い。

文・写真=角田貴広

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