今回、東灘区とACALLが共同で開発したアプリは、キーワードを入力すると、担当窓口が判るだけでなく、PDFで保存したチラシや資料も見ることもできる。例えば「バス」と打ち込めば、近くにはどの路線のバス停があるのかが地図で表示され、そのバス停の時刻表も検索できる。
利用者が「心地よい」と感じるシステム
このシステムには、ACALLが培ってきたユーザーインターフェース(UI)が生きている。この手のシステムの使い勝手を左右するのは、利用者が「心地よい」と感じるかどうかで、画面をタップしてすぐに結果が表示されるかにかかっている。
ここの機能に、同社が受付システムで開発した、数千人の社員の中から部署名と社員名を一致させる検索エンジンが転用されている。あいまいな情報を入れるだけで、見つけ出したい情報を瞬時に気持ちよく提案してくるのだ。
実を言うと、最初にACALLから区役所に示されたプロトタイプでは、表示までに時間がかかった。ACALLの開発担当者が「何とかします」と持ち帰ってから1カ月。見違えるようなレスポンスに生まれ変わった。
ACALL代表の長沼斉寿が、「区役所の職員が困り、解決策を探しているのに共感した。受付システムを自分たちのために開発したのを思い出した」と語るように、職員と同じ思いで開発に挑めたことが、短期間での成功につながった。
昨年秋、試作機で住民を案内する実証実験が行われた。案内に不慣れな職員が使ったケースでは、以前は1人あたり平均で47秒かかっていたものが、わずか24秒でできるようになった。25秒かかる専門職員と比べても遜色がない。さらに、相談に対して応えられない割合も、約3割から1割以下に激減した。
この新しいシステムは、職員たちがエクセルや専用画面に入力するだけで、新しい情報も追加できる。大手ベンダーがデータ更新で毎年多額の請求をする作戦とは、真逆の発想だ。低コストだからこそ多くの自治体に使ってもらえる。リスクを負いながら市場獲得を目指すスタートアップらしい戦略といえよう。
すでに全国の自治体から問い合わせが続いている。今月になって、埼玉県の深谷市役所で導入が決まり、試行運用が始まったというニュースも飛び込んできた。
昔ながらの仕事のやり方が多いと思われがちな行政。だからこそ、最新のテクノロジーを導入しながら、かつスタートアップの育成にも役立てるという、一石二鳥の「行政とスタートアップ」という新しい組み合わせが、これからのトレンドとなっていく予感がする。
連載:地方発イノベーションの秘訣
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