人口21万人を抱える神戸市東灘区。区役所には、26の窓口がある。そこでは、玄関近くに専門職員を配置して、案内することにしている。
ところが、この案内がとんでもなく難しい。それぞれの窓口に誘導すればよいと思うかもしれないが、必ずしも窓口を尋ねる人ばかりでない。国の機関である年金事務所に行かなければならない人、近くのバス停の場所や時刻表を教えてほしいという人、引っ越してきたこの土地で初詣に行くべき神社を知りたい人まで来る。
しかし、これらに応える窓口自体が区役所に存在しない。それでも案内担当の職員は、経験から膨大な紙資料を準備し、無茶な問い合わせにも対応する。
とはいえ、職員なので休暇を取ることもあれば、突然の退職もある。そのときにピンチヒッターを務める職員は、文字どおり大ピンチに陥る。イレギュラーな質問をうまくさばけず、約3割の相談に応えられないという。
そんななかで、神戸市では、東灘区役所とスタートアップ企業「ACALL(アコール)」の合同で、案内する職員をサポートするiPadアプリの開発に成功した。さらに6月から、神戸市は、市内に10ある全ての区役所でアプリを正式導入すると発表した。
自分たちのために開発したシステムがヒット商品に
ACALLは、来客対応の自動化システムで急成長しているスタートアップだ。そのシステムは、商談などのアポイントメントが決まると、自動的に顧客にメールでQRコードを送り、そして会議室も予約する。顧客が会社を訪問して、受付でQRコードをかざすと、該当社員に通知され、会議室に案内される。
実は、このシステム、自社の困りごとが開発のきっかけとなった。エンジニアしかいない小さなIT企業では、受付どころか総務の社員すらいない。来客があるたびにエンジニアが作業を止めてドアを開けることになる。
これではやっていられないと思い、ドアの前にiPadを立て掛けた。来客があっても、作業スペースから誰が来たのかを確認でき、会う必要がなければ、画面越しに断ることもできる。
この仕組みをブログやSNSで紹介すると、大手企業からの相談が相次ぐ。もちろん最初はお金をもらえるようなシステムではなかったが、使ってもらいながら改良を続けた。いまや三菱UFJ銀行、東急不動産、LINEなど約2000社で導入されるヒット商品に育った。