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2019.06.20

全競合他社にデータを共有 ボルボが示した安全追求への矜持

KULLAPONG PARCHERAT / shutterstock.com

女性が運転中に怪我をする確率は、男性よりも高いというデータがある。

その大きな要因の一つとして、ほとんどの自動車メーカーが、いまだに衝突テストで成人男性を模したダミー人形だけを使用していることが挙げられる。

性差によって、なぜ安全性に差があるのか?

この課題への解決策として、スウェーデンの自動車メーカー「ボルボ」が打ち出したキャンペーン「The E.V.A. Initiative(ザ イーヴイエー イニシアチブ)」が、6月17日から南仏カンヌで開催されている世界的なクリエイティビティフェスティバル「カンヌライオンズ」でクリエイティブストラテジー部門のグランプリを受賞した。

1970年から、同社の事故調査チームは、4万台以上の車と7万人の乗客からデータを収集し、分析を続けている。それを、自社のためだけに活用するのではなく、自動車業界のライバル他社にも、事故分析データを共有したのだ。

キャンペーンの全貌は、この動画を見てほしい。



動画上で示されるように、性別や年齢による体格差などの理由から、自動車事故で被害を受ける内容には差がある。

例えば、人体の解剖学的構造や体の強さの違いにより、女性は男性よりもむち打ち症や胸部損傷を受ける可能性が高いという。

成人男性のダミー人形のみでデータを集めても、全ての人を交通事故から守ることはできないのだ。

「クリエイティブストラテジー部門」は今年から新しく創設された部門。アイデアとデータでの掛け合わせでいかに効果的なパフォーマンスを発揮できるかが審査基準となる。

20年以上にわたり、幅広い業界で広告およびマーケティング戦略に関わってきた審査員長のトレイシー・フォロウズは、本作品がグランプリを獲得した最大の理由をこう振り返った。

「現実社会で起きているデータを元に展開されたことももちろん大きいです。そしてそのデータを競合他社にも明かすというクリエイティブな発想とアクションは、他のどの作品よりも業界全体を変革させる可能性に満ちていました。膨大なデータがクリエイティブなアウトプットに繋がることを、多くの人に示すきっかけにもなるでしょう」

メッセージの正当性で消費者がブランドを選ぶいま、自動車業界全体の安全性を重要視するボルボの姿勢は、イメージアップに繋がることも少なからずあるはずだ。

文=守屋美佳

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