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2019.06.22

アリババの香港IPOが「米中の経済戦争」に与える影響

ジャック・マー(アリババ社創業者/現会長)

米ニューヨーク市場に上場している中国のアリババは、香港市場における2次上場の準備を進めている。アナリストはアリババの香港上場が200億ドル規模になると予測し、米中の緊張の高まりの中で、母国での上場に踏み切る中国企業が今後増える可能性を指摘する。
 
アリババは香港市場に既に上場申請を行ったと報じられており、1対8の株式分割を行うことで流動性を高めると発表した。アリババは2014年の米国での上場で250億ドル(約2.7兆円)を調達し、史上最大のIPO案件となっていた。
 
アリババの香港での上場が成功すれば、他の中国企業もこれに続く可能性がある。中国政府は米中の緊張の高まりの中で、母国で上場する企業に対し、規制を緩和する姿勢を見せている。
 
投資アドバイザー企業Kaiyuan CapitalのBrock Silversは「アリババの動きは、少なくとも一部は、中国政府の意図をくむものだ」と話す。「米中の緊張が今後も高まることが予測される中で、アリババが香港で上場に踏み切れば、他の企業も母国での上場を検討するだろう」
 
香港で新たに導入された制度では、企業は取締役会の議決権の自由度を確保しつつ上場が行える。アリババは新制度のメリットを活用して、上場に踏み切る計画だ。同社は5年前に香港での上場を検討したが、幹部が取締役会の議決権の大半を握る構造が当時の香港市場では認められず、断念していた。
 
国内でのIPOを増やしたい中国政府は、最近になって上海にナスダック式の取引所を新設し、従来よりも緩やかな条件で上場を認めるようになった。アリババやバイドゥのような中国の大手テック企業は、これまで米国市場を選んできたが、その主な理由は中国市場での規制の厳格さにあった。
 
しかし、米国の規制当局が中国企業に向ける目も厳しさを増している。6月に入り、米国では超党派の議員らが団結し、米国で上場した中国企業への会計監査を強化する法案を提出した。法案には、米国の監査を拒んだ企業が上場廃止に追い込まれることが盛り込まれた。
 
香港のデモの影響は?

米国市場に上場する企業を監査する、米国公開企業会計監視委員会(PCAOB)は定期的に監査業務を行っている。しかし、PCAOBによると中国政府は国家の安全保障上の理由で、これを拒んでいるという。
 
「仮に今回の法案が成立すれば、中国企業が米国で上場する事例はなくなる」と北京大学のIMBAプログラムで共同ディレクターを務めるPaul Gillis教授は話した。「これは米国の市場や投資銀行に打撃を与えることにもなる」
 
法案が成立するかどうかは今後の米中間の交渉の進展次第だが、米国で上場する中国企業は現在156社に及び、合計の時価総額は1.2兆ドルに達している。今年だけでも9社の中国企業が米国で上場し、14億ドルを調達している。
 
一方で、母国で上場した中国企業の状況も、決して華々しいものとはいえない。香港市場にここ最近デビューした企業には、シャオミや美団などがあるが、株価はIPO価格を下回っている。さらに、大規模デモの発生で動揺する香港からは今後、資金が海外に流出する懸念もある。
 
「現時点では、市場にデモによる影響は見られない」と香港に拠点を置くAmple CapitalのAlex Wongは話した。「リスクは常にあるが、今のところ突発的な事態が起こる可能性は低い」とWongは話した。

編集=上田裕資

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