経済・社会

2019.06.23 10:30

本が泣いている。ボルチモアで起きた自費出版を使った新手の収賄

米ボルチモア市のキャサリン・ピュー元市長(Photo by Paul Marotta/Getty Images)

米ボルチモア市のキャサリン・ピュー元市長(Photo by Paul Marotta/Getty Images)

来年の大統領選挙に向けて、テレビニュースの3分の2が関連のニュースに費やされるアメリカで、新手の贈収賄事件が発覚し、大きな話題を呼んでいる。

場所はメリーランド州のボルチモア市。アメリカの市は基本的には郡に属し、郡が州に属するのだが、歴史があり、サイズの大きなボルチモアのような市は独立市として郡組織を上部に持たない。実は、そういう市が、アメリカには約50ある。

ボルチモアは、その「独立市」のなかでも最大の人口約60万人を擁し、190年の歴史を持つ市だ。

この4月、そこの女性市長であるキャサリン・ピューが、収賄容疑でFBIの捜査を受けた。当初は容疑を否認していたが、5月に入って捜査が進み、状況が悪くなると、辞任したのだ。

ボルチモア市は、アメリカでも珍しく、3人の女性市長を連続して輩出した進歩性を持ち、犯罪や貧困との取り組みに積極的な姿勢を示していたのだが、実は、1人目の女性市長、シーラ・ディクソンも業務上横領罪で有罪判決を受けて退陣している。

市議会は市長の辞職を勧告

さて、キャサリン・ピュー市長の収賄だが、その仕組みがこれまでにないものだった。

ワシントン・ポスト紙によると、なんと彼女は、自分が自費出版をした健康・育児本「ヘルシー・ホーリー」を、市会議員として健康福祉部会にいた時から市長となった7年間にかけて、毎年、メリーランド大学の医療システム部に購入をさせていたというのだ。

その数は累計で10万部に及んだという。彼女が市会議員時代に所属していた健康福祉部会は、まさに市に属する医療機関を管理監督する部会であり、大学の医療システム部に対して人事権も持つ。さらに、この大学の医療システム部には、市からかなりの補助金も投入されていた。

10万部はどういう数字かというと、日本でいえば、世の中を賑わすような立派なベストセラーだ。彼女が大学に「押し売り」した自著の10万部とは、このくらい凄い数字なのだ。
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文=長野慶太

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