乳製品はスキャンダルにも強し
一方、フランスの乳製品大手「ラクタリス・グループ」は、ここ1年、全粉ミルクの汚染スキャンダルに苦しんだものの、グループの創業者らはこれまで通り、その富の健在ぶりを示した。同社の最高経営責任者(CEO)エマニュエル・ベニエが前年度の5位から7位にランクを落としたのはスキャンダルの影響ではなく、単に昨年シャネルが初めて財務開示し、ヴェルテメール兄弟が順位を上げたからに他ならない。ベニエの資産はおよそ126億ユーロ(143億ドル)を保ったまま安定している。
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またベニエ一族からは、兄のジャン=ミッシェル・ベニエと妹マリー・ベニエ=ボーヴァロも、それぞれ44億ユーロの資産を計上し、13位にランクインしている。
光る「たたき上げ」起業家の逞しさ
2019年版長者番付に入った40人のフランス人富豪のうち、3分の1以上は自力で財を成した「たたき上げ」の実業家だ。彼らは20年、30年、ときには40年もの時をかけて世界的グループ企業を築き上げることに成功している。フランスには世界に通用するトップなど生み出せないという先入観を見事に一掃してくれる結果となった。
こうした生粋の起業家の代表格といえば、食品のグループ・ル・デュフのルイ・ル・デュフ(27位、21億ユーロ)、建設業ファヤット・グループのクレメント・ファヤット(37位、11億ユーロ)、建築資材大手「アルトラッド・グループ」を築き上げたシリア系遊牧民ベドウィンのモヘド・アルトラッド(24位、24億ユーロ)が挙げられる。
さらに見ていくと、スポーツ用品「デカラトン」のミシェル・ルクレール(16位、42億ユーロ)、分析・検査「ユーロフィン」のジル・マルタ(34位、14億ユーロ)、経営権は娘に譲ったものの、フードサービス「ソデクソグループ」のピエール・ベロン(11位、47億ユーロ)なども好例といえるだろう。
「苦悩」するテック業界の大物たち
こうした上位の富豪たちとの著しい対比を見せたのは、電気通信および技術関連のグループ企業創業者たちだ。
SFR、通信・メディア大手「アルティス」のパトリック・ドライ(9位)はわずかに順位を上げた。フランスとイスラエルの市民権を持つ通信界の立役者ドライ氏は、業界の足場を固めるべく尽力を図ったものの、株価は下落を続けた挙句、地に落ち、アルティス・グループは300億ユーロもの負債を抱えるまでにいたっている。
もっとも大きく順位を落としたのは、新興通信大手「イリアッド」創業者グザビエ・ニール(18位)だ。株価60%下落という不遇の1年を受け、今年は18位と順位を10も落とした。この10年間にフィンテックが大手を振って手に入れてきたサクセス・ストーリーは、ここへきていきなり歯止めがかけられた様相だ。フィンテック創業者らの資産も同じ憂き目にあっている。