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「非製造業的な世界での製造業的なモデルが、子どもたちのやる気を奪っているんだ」

オルトスクールが採用したのは、ビル&メリンダ・ゲイツ財団やエマーソン・コレクティブ、さらにはザッカーバーグが長女マキシマに宛てた手紙の中で支持を表明した教育哲学だった。「個別化学習」「学習者中心の学習」などと呼ばれ、全知の教師が教壇で講義し、全生徒が一体となって成長することが想定された従来の教育モデルに異を唱える。子どもたちに、教師と話し合って個別の目標を定めさせたり、一定のカリキュラムの枠内で最も関心の高い分野を探究させたり、その過程で多くのフィードバックを交わさせたりすることを目指すのだ。


オルトスクールのソフトウェアを通じ、個別化されたカリキュラムで学ぶ子供達

個別化学習にITをどう生かすかは最も論議の的となっている。誰だって生徒たちが一日中モニターの前に座って、AI搭載のソフトウェアが出す計算問題を解き続けることなど望んでいない。オルトスクールでベンティラが提案したのは、教師が効率的かつ容易に宿題をカスタマイズし、成績を評価し、学校管理者や保護者と連絡を取ることが可能になるソフトウェア・プラットフォームの開発だ。彼が「実験校」と呼ぶオルトスクールの学校では、教師は生徒に対するアプローチを試す一方、グーグル、アップル、フェイスブックなどからの転職組を中心とする技術系スタッフと緊密に協力し合っている。

それでも、教育が検索エンジンなどよりずっと参入の難しいビジネスであることを、ベンティラはすぐに学んだ。当初はオルトスクールのネットワークの全国展開にも取り組んだが、16年には断念。18年末までに9校あった実験校の5校を閉鎖した。授業料は年間2万6000ドルからでそれなりに高額だが他の私立校よりは安く、採算が取れなかったのだ。

16年、ベンティラは自身のビジョンを実現する最も費用対効果の高い方法を決定した。すなわち学校経営よりもソフトウェアのプラットフォーム構築を優先させ、それを顧客(彼は「パートナー」と呼ぶ)に販売。購入した学校からのフィードバックによってさらにプロダクトを磨きあげるのだ。

しかし個別化学習を促進するという触れ込みの学習管理システムは、「スクーロジー」「ムードル」「ブラックボード」「カンバス」といった競合企業も提供している。ソルトレークシティを拠点とするカンバスは、数千校の顧客を持つ自称マーケットリーダーで、プロダクトには無料のものと、生徒1人あたり年額10ドル程度のカスタマイズ版とがある。対照的に、オルトスクールの料金は生徒1人あたり年額100〜150ドル。高すぎると言う教育関係者は少なくない。

ただ、否定的な見方があってもベンティラは「肝心なのは規模だ」と意に介さない。いずれ自社プロダクトの価格は1人あたり50ドルまで下がると予想する。オルトスクールはプロダクトに教育カリキュラムを扱うソフトウェアも組み込んできた。教師のパフォーマンスを上げるための助言も自動的にくれる。

「我々はカリキュラムに替わるものを売っているんだ。プロフェッショナルな開発品だし、学校にとっては高額だけれども、オルトスクールが現在請求している金額の何倍もの価値がある」

文=スーザン・アダムス 写真=ティモシー・アーチボルド 翻訳=町田敦夫

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