「5年後には、この会社はないかもしれないな」
オルトスクールの共同創業者兼CEOであるマックス・ベンティラ(38)がそう言うと、取材を歓迎していなかった2人の広報担当者があわてた。
私たちはガラス張りの蒸し暑い会議室で2時間にわたり密度の濃いインタビューを続けていた。元スポーツジムだったその建物は、現在、ニューヨークの2校以外にサンフランシスコに2校あるオルトスクールの小規模私立校の1つとして、幼児から8年生までを受け入れている。2013年にグーグルを辞めてオルトスクールを立ち上げたベンティラは、ここ数年、年間3000万ドル(約33億円)を費やし、全部で4つの学校を運営する教育系スタートアップの足場を堅固なものにしようと努めてきた。
オルトスクールの240人の生徒(ベンティラの5歳と7歳の子どもも含む)は、彼の会社が数百の公立校や私立校に売り込もうとしているソフトウェア・プラットフォームのモルモットだ。これまで獲得した顧客は28校。18年の売り上げは700万ドルだった。
「我々の戦略は稼ぐ以上に使おうということなんだ」
ジーンズにすり減った黒革の靴、オルトスクールのロゴが入った色あせたポロシャツ、黒のフリースジャケットという服装のベンティラは、これまでは現金を垂れ流すことができていた。米調査会社ピッチブックによれば、オルトスクールは4億4000万ドルという企業評価額をもとに、1億7400万ドルのベンチャー・マネーを調達してきた。K-12教育(アメリカの学校制度で、幼稚園の年長から高校卒業までの13年間の教育期間のこと)を事業対象とするスタートアップで、これほどの金額を集めた企業の例はほかにほとんどない。
調達した資金には、マーク・ザッカーバーグとその妻プリシラ・チャンが個人的に出資した1500万ドルを超える資金も含まれる。ほかにも、ローレン・パウエル・ジョブズのエマーソン・コレクティブ、ピエール・オミダイアのオミダイア・ネットワーク、ピーター・ティールのファウンダーズ・ファンド、マーク・アンドリーセンのアンドリーセン・ホロウィッツなどが、彼の気高い売り文句に心を動かされ、こぞってオルトスクールの後ろ盾になってきた。
個別にカスタマイズされた教育を
ベンティラは、米国の初等・中等教育の質は工業化時代のモデルのままで、過去1世紀にわたり低下し続けてきたと話す。読解・数学・科学について行われる「OECD生徒の国際的な学習到達度調査(PISA)」で、直近の米国の15歳の若者の成績は、71カ国中38位だったのだ。