ケリーさんが亡くなってから2年経った今でも、遺族らは「身体拘束は非人道的」と訴え続ける。
6月18日にはケリーさんの件を踏まえ、故郷ニュージーランドの精神医療の歴史と最前線の取り組みから、日本が身体拘束のない国になるためのヒントを探る番組がNHKで放送される。

大学の卒業式にて両親と記念写真を撮るケリーさん。
ケリーさんは高校生の時にうつ病を患い入院も経験したが、ニュージーランドの病院では身体拘束をされたことはないという。今回の日本の病院における精神科の対応では、ケリーさんが看護師や医師に対し暴力的な行動に及んだり、入院についての反抗的な対応をしたりすることはなかったにも関わらず、10日間にわたり病室の外から鍵をかけられ、ベッドに拘束された。
遺族らはケリーさんの死因について、長時間の身体拘束による肺塞栓症を起こしたためと見ているが、病院側は因果関係はないと主張した。この問題はニュージーランドのメディアでも大きく取り上げられ、日本の身体拘束について議論が提起された。

ニュージーランドの日刊紙は1面トップで大きくケリーさんの悲劇を取り上げた。
今回Forbes JAPANでは、ケリーさんの兄であるパトリック・サベジさんにコメントを依頼し、手記を寄せてもらった。その全文をそのまま掲載する。
日本のみなさんへ
10日連続で日本の精神科の病院のベッドに縛られた後、27歳で弟のケリーが亡くなった話を聞いてください。
ケリーが入院するのを手伝った時、私はもう彼は安全だと思いとても安心しました。病院の人々が彼をベッドに縛った時、私はショックを受けました。しかしそれがケリーにとって心地良くなくても、彼のことを殺すまではしないだろうと考えました。
ケリーの心臓が止まったことを病院側が私に伝えた時でさえ、私はそれが彼の薬の何らかの副作用のせいであったに違いないと思いました。
ケリーの心臓病専門医が、「彼はもう昏睡状態から目覚めることはなく、深部静脈血栓症(エコノミー症候群として知られる)で彼の心臓が止まったのは拘束したことに原因があるかもしれない」と私たちに言ったのは、それから数日後のことでした。
長期にわたる拘束による死亡の危険性はよく知られていることであり、またケリーが日本で不必要な拘束の後に死亡した最初の人ではないことを、手遅れになって初めて知りました。またそれはこれからも起こり続けると思います。
悲劇はもう起こってほしくない
私たちの母国であるニュージーランドや、他の先進国の精神科の病院では、ずっと前に長期にわたる拘束の危険性を認識し、劇的に減少させ、排除しました。残念ながら日本では、ほかの先進国よりも何倍も多く患者を拘束し続けています。
私の日本への祈りは、この事実をこれ以上不要な悲劇が起こらないための機会として使うことです。ケリーは日本を愛しました。彼は、日本で英語を教えるという生涯の夢とともに生きることをとても幸せに思っていました。両親も私も、そんな彼をとても誇りに思っていました。
ケリーの喪失は私たち家族全員を打ちのめしましたが、彼の記憶を尊重するために最低限私たちができる事は、これ以上不要な犠牲者を出さないようにすることだと思っています。

働いていた小学校では「ケリー先生」と呼ばれ、生徒たちに愛された。
国内の身体拘束者数は15年間で2倍に
厚生労働省が毎年6月30日に調査を実施している「精神保健福祉資料(630調査)」によると、2017年6月30日のその日1日の身体拘束者は1万2528人、部屋の外から鍵をかけられて隔離される人は1万2817人にのぼる。2003年から調査に加わったこの「拘束」と「隔離」は年々増加し、この15年間で倍以上になっている。
現在日本の拘束時間に関する統計は厚生労働省によって収集されておらず、杏林大学の長谷川俊夫教授が行った日本の11の精神科病院での調査によると、平均拘束期間は96日で、最大時間は1096日(約3年)に及ぶ。また長谷川氏によると、把握している範囲では2013年〜2018年に身体拘束に関連して亡くなったとみられる人は10名ほどいるという。
ケリー・サベジさんの死や海外からの指摘から目を背けず、国や専門機関が、手遅れになる前に身体拘束の在り方についてさらに考究することを願う。