単なる建物の居心地の良さだけではなく、顔の見えるスタッフやゲストとのコミュニケーションも魅力だ。例えば、毎週行われている「トワイライト・アフェアー」には、訪れたゲスト全員が招待され(参加は任意)、無料でカクテルやカナッペなどがサーブされる。
総支配人のヘアはもちろん、各部門のマネージャーやシェフたちも参加する。その目的は、直接話をすることで、お互いが顔見知りとなり、よりくつろげる空間をつくるためだ。朝食に行けば、スタッフが顔を覚えてくれていて、「今日はどんな予定?」と話しかけられる。会話を交わしながら、数日経つうちにすっかり常連客のような気分になってくる。
「居酒屋」感覚でリラックスして楽しむ料理
実は、ヘアは、ヒルトン東京で19のレストラン&バーを束ねるエグゼクティブシェフをしていた経験を持ち、料理の重要性もよく知っている。だが、リゾートでは「料理は脇役」なのだという。
ヘアが初めてモルディブで働いたのは、約20年前。長年の経験から、リゾートの料理は、東京やパリなどの都会で求められる料理は違うものと考えている。
「本物の懐石料理を求める人は、モルディブではなく京都に行くでしょう。ここに来る人は、家族や友人との、かけがえのない時間のためにお金を払っているのです。その時間が主役で、椰子の木や美しい海と同じように、料理はそれを彩るものです」
とはいえ、料理を通して、いかに楽しく思い出深い時間を演出するかは、考え尽くされている。
Feeling KOI の2階のスタイリッシュなバー
約1年半前にオープンした創作日本料理「Feeling KOI」は、そんなヘアの姿勢をよく表したものだろう。「生真面目な」日本料理ではなくて、誰もがリラックスして楽しめる料理をめざしている。
多くの人に馴染みやすいアレンジが加わった創作料理にしており、いま話題の日系料理もメニューに加えた。「居酒屋スタイル」で、カップルや家族や仲間で分け合う大皿が基本。肩肘張らずに過ごす「時間」が主役という思いからだ。
ちなみに、「KOI」とは、日本語の「恋」から。桟橋を通って向かう水上レストランで、美しいサンセットも楽しめるロマンティックなロケーション。カクテルが楽しめるバーや、シャンパンとキャビアも揃っている。
恋に落ちるような、ドキドキする気持ちが楽しめる、スペシャルレストランだ。それでも、気取りすぎに感じないのは、日本人ならクスリと笑ってしまう、壁に描かれた絵が「恋」ならぬ「鯉」というところに、遊び心が見えるからかもしれない。
料理は、セヴィーチェを始め、炭水化物を使わないものも多い。リゾートでは、すべてのレストランで、ベジタリアン、グルテンフリーメニューの他にも、ケトジェニックダイエット(高脂肪・低炭水化物食)のオプションなども揃えているが、日系料理はそんな選択肢としても相性が良いのだという。
実際、Feeling KOIでは、マグロの刺身にアボカドを合わせ、ココナッツオイルをかけた料理をケトジェニックダイエットの人向けに提供している。