「居心地の良さ」にこだわるリゾートは、「戻りたくなる家」のようだった

モルディブの海


アミラフシには、Feeling KOIも含め計11のレストランがあり、それぞれで、週に1回、テーマを絞った「スペシャルナイト」が開催される。レストランの各シェフがいちばん好きな料理を提供するというスタイルで、訪れた人に、いつも何かが起きているというワクワク感を演出している。

それは、元シェフだったヘアならではの、スタッフに対するモチベーションの与え方でもある。メニューの監修は各シェフとともにヘアが行うが、外からの刺激が比較的少ないリゾートで働き、同じメニューを提供し続けることは、ある意味シェフたちにとって退屈でもある。

「自分の好きなメニュー」を提供する機会を与えるということは、「自分が好き」という気持ちがあるからこそ妥協できないし、新メニュー作成に取り組むことにも繋がる。

そして、自分の好きな料理、という個人的なストーリーが加わった「顔の見える」スタイルは、ゲストにとっても、シェフに親しみを感じてもらえる。まさに、「ホーム」というコンセプトにぴったりと合致するわけだ。

また、時には「チリ(唐辛子)ナイト」などとテーマを設定し、それぞれのシェフがスパイシーなメニューを1品ずつ提供する日も設け、シェフ同志の良い意味での競争心で、料理の味の向上も目指している。

「また来年会いましょう」

筆者の滞在最終日、Feeling KOIへの桟橋を望むカバナで涼んでいると、桟橋から手を振る人がいる。Feeling KOIのヘッドシェフ、コマン・スバラナだ。

「いま、ちょうど漁船が着いて、魚を運んでいるところなんだ。今日の魚は……」と説明してくれた。島で暮らしていて、顔見知りの近所の人と話すのは、きっとこんな感じなのだろうなと、ふと思った。


FeelingKOIのヘッドシェフ、コマン・スバラナ

「居心地の良さ」「飽きさせないセッティング」そんな数日間を過ごした後に、「家」を離れるゲストに、滞在中ずっと担当してきたバトラーがかける別れの言葉は、「また来年会いましょう」だった。

たった数日間ではあるが、外に出かけることのない島での暮らしは、親密さを生み出し、まるで島に住む親戚に会いに来ていたかのような気分になる。長期の休みは、毎年同じ時期という人は多いだろう。「また来年」と言われると、そうだ、また同じ休みに戻って来ればいい、そう思えてくる。

「待っていてくれる人がいる」というのは、強い絆を生み出す。ヘアが描いた「家」というコンセプトは、ハードウエアだけで成り立つのではなく、人と人の繋がりが生み出す「愛着」でもある。相手の顔が見える人と人の繋がりが、「戻りたくなる家」を生み出す秘密でもあるのだろう。

文・写真=仲山 今日子

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