とはいえ、同じ場所で、内装もそのままなのに、そこで働いている人たちが変わると、何かが違う……と違和感を覚えることも少なくない。その店に通っていた客が、代替わりをしてからも常連であり続けるかで、その後の店の雰囲気を大きく左右するだろう。
オペラ座とヴァンドーム広場の間に位置する「ル・プティ・ヴァンドーム(Le Petit Vendôme)」は、オーナーの代替わりを経ても、活気も人気も失わず、雰囲気が損なわれることもなく、むしろ勢いを増している印象を受けるという好事例だ。
現オーナーは、2012年にこの店を買い取った。それまではまったく「別の畑」にいた人で、ヴァンドーム広場にアトリエを持つオートクチュール・メゾンの経営者だった。
ファッションの世界に身を置いた30年間、仕事場から近いル・プティ・ヴァンドームには客として通っていた。だから、1995年から自身が買い取るまでの前オーナーも、その前のオーナーの時代も知っている。
実は、現オーナーの手に店が渡って数年の間、私はこの店から足が遠のいていた。前オーナーの時代は、オーナーである父親がカウンターに立ち、彼の娘が文字通り看板娘としてフロアを忙しく立ち回って、家族的な親密さが店内に満ちていた。
その空気が失くなってしまったことへの寂しさもあったが、やはり、オーナーもスタッフも変わったことで、少し、客足が引いたように見えた。前は、ブラスバンドが華やかに奏でる和音のような熱気が充満していたのに……と、失くなったことであらためてそこにあった温度を思い出した。
ところが、2年ほど前だろうか。昼時に店の前を通りかかると、かつての見慣れていた光景が目に入った。とても賑わっていた。たまに通りかかる私と違って、近隣で働く人たちは、すでにこの店に通う日常を再開していたようだ。
カフェ、サンドイッチ、ビストロ
ル・プティ・ヴァンドームには3つの顔がある。
1つ目はカフェ。朝8時半に開店し、客はふらりと立ち寄って、カウンターでエスプレッソやカフェオレを飲み、立ち去っていく。大混雑のランチタイムが過ぎ去ったあとは、ゆったりとした時間の流れる街のカフェになる。昼時の喧騒が嘘のように、蛍光灯が照らす店内には少し寂れた空気が漂う。