AP通信は2014年にAIを初導入。その後、「取材」、「配信」、「ニュースの配列」などに技術を拡張してきた。同社の企業戦略ディレクター・Robyn Spector氏は、すでにAIは“技術トレンド”でなく“必須アイテム”とし、スタートアップとの協業体制について言及。過去にSAMというAIスタートアップの株式を取得したことを例に挙げ、状況を説明している。
SAMはソーシャルメディアをモニタリングするAIを開発している。事件や事故が起きた際に、編集部に通知する仕組みを持った人工知能だ。そこまで聞く限り、割とありふれたサービスのようにも聞こえるのだが、SAMが開発するAIがユニークな点は「重大度」(severity)という概念を取り入れている点である。
例えば、米国内で銃撃事件が起きたとしよう。米国では珍しいニュースではないため、AIはまだその時点ではあまり着目しない。ただ、その現場が学校やショッピングモールなど人口が密集した場所であれば、「高い重大度」があると認識し人間に知らせるという具合である。つまり、まるで人間のようにSNSを監視・観察しながら、編集部をサポートしてくれるという訳だ。AP通信はその他にも、忙しい読者のためにニュースを要約したり、写真を自動で認識して時間毎に配列してくれるAIをサービスに実装しているという。
ニューヨークタイムズは、Trintが開発しているアプリケーションを利用しているという。Trintは、音声やビデオファイルをテキストに変換してくれるサービスを提供している。いわゆる「テープ起こしAI」である。一方、ワシントンポストとロイターはNewswhipと協業。同社のAIは、編集計画やストーリー分析、ベンチマーキングを支援する。特にベンチマーキングに強みがあり、他社で緊急速報やスクープが報じられた際に、差別化の方向性を提示してくれる機能を持つ。また、他社が写真と動画のどのくらいの割合で使っているかなど、SNS活用方法についても分析・ベンチマーキングしてくれる。
スポーツ専門メディアであるESPNなどは、Score StreamのAIサービスを愛用しているという。同社のAIは、ファンから送られてきた試合のスコア、動画、写真をリアルタイムでスコアボードやウェブ上に掲載・共有する。結果、地方で行われている試合や、学生同士の試合など、ニッチだが根強い愛好家がいるスポーツの報道が可能となっている。
数年前、各メディアはAIをどう取り入れるべきか議論してきたが、現在では各社各様のユースケースが確立されつつある。人間と機械が協業した新たなメディア、ジャーナリズムの形はすでに姿を現し始めているのかもしれない。
連載 : AI通信「こんなとこにも人工知能」
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