ライフスタイル

2019.06.20 08:00

素潜りで世界を撮る 水中表現家・二木あいが人間の限界に挑み続ける理由



同じアザラシでも、メキシコのアザラシは特に人懐こいという。Photographed by Octavio Valdes y Luis Martínez Tapia

ダイビングだとなかなか近づくことのできない距離までクジラに接近したときは、その深くて静かな目に全てを見透かされたような気持ちになりました。

すごく遠い世界に感じるかもしれませんが、実は海って人類共通ですごく近い存在なんです。

生まれる前、私たちは「お母さんの大きな海」とも言える羊水の中にいましたよね。水中にいるって、どこか温かい気持ちになると思うんです。

高所恐怖症の人は高いところの写真を見ただけで恐怖心を抱くことが多いようですが、水中は人間が本能的に懐かしいと思う場所だから、海が苦手な人も写真を見せると「きれいだね」と言ってくれます。

自分の活動を通して、私たちの根底にある本能の部分を呼び起こしていきたいです。

──ホンジュラスで「自分が潜らなくては」と直感的に抱いたミッションがモチベーションとすれば、二木さんが最もワクワクする瞬間はいつでしょうか。

次のギネス記録をとった後にやってみたいのは、全長約30mの世界で一番大きい動物、シロナガスクジラと一緒に写真を撮ること。人間とアリくらいに大きさの違う動物と1枚の写真に収まっていたら、みんなびっくりしますよね。

こうやって新しいプロジェクトのことを考えている時は、本当にワクワクします。

私は、次世代の人にチャレンジすることの大切さを伝えることも、自分のミッションだと思っています。人それぞれ色々な考え方があるけれど、快適な生ぬるいお湯に浸かりっぱなしの人生はどうなのかな?と最近特に感じます。

今の自分から一歩踏み出して、新たな世界へ向かうのは簡単なことではありません。前進も後進もするし、どこにも行けなくて「本当にこれでいいのか」って迷うこともある。でも同時に、冒険をしているようですごく楽しい。

標高の高い場所に行けばそこに体が順応するように、人間って進化するんです。体だけではなく、精神も心も人間は進化すると思います。

海中のありのままの姿をシェアしながら、新しいことに挑戦するときに感じる「ワクワク」を感じてもらえているのなら、ダイビングを始めた当時に感じた直感は間違っていなかったはずです。




ふたき・あい◎3才より水泳を始め、高校卒業後
ドキュメンタリー作家をめざし、
アメリカ、キューバで映像を勉強。
スキューバダイビングの経験を経て、
2007年フリーダイビングを始める。水中世界と陸上世界の架け橋となるべく、
空気タンクを使わず素潜りのみで
表現しているパイオニア的存在。

構成=守屋美佳 イラストレーション=Luke Waller

タグ:

連載

セルフメイドウーマン

ForbesBrandVoice

人気記事