ビジネス

2019.06.19

入場料3倍でも客足増加。小豆島「妖怪美術館」のV字回復の舞台裏

多くの観光客が訪れる妖怪美術館

トラベルオーディオガイド「ON THE TRIP」創業者の成瀬勇輝が、お寺や神社、美術館などで第一線に活躍するキーパーソンに訪ねてそのビジネスモデルを探求するシリーズ。第二弾は、妖怪美術館を運営するMeiPAMの佐藤秀司、そして妖怪アーティストの柳生忠平だ。


3年に1度、瀬戸内海の島々を舞台に開催される現代アートの祭典「瀬戸内国際芸術祭」。春、夏、秋の3回に分けて開催される同イベント。“あつまる夏”と題した夏会期は7月19日〜8月25日にかけて開催される予定だ。

瀬戸内国際芸術祭と聞くと、多くの人は草間彌生の「赤かぼちゃ」、藤本壮介の「直島パヴィリオン」などが展示されている“直島”をイメージするだろう。決して間違いではない。実際、他の島と比べても直島に訪れる観光客が多いのは事実だ。

そうした中、海外の観光客から人気を得ている場所が、小豆島にある。それが小豆島の“迷路のまち”に点在する、5つの建物を巡りながら妖怪の新しい姿を発見する美術館「妖怪美術館」だ。2019年4月18日にリニューアルオープン後、入館料をアップ。GW特需や芸術祭会期と重なったこともあるが、入場者数は前年比で3.6倍、売り上げは11倍に増加。海外の観光客を中心に客足が絶えないという。

もちろん、現在に至るまで順風満帆だったわけではない。2018年に「妖怪美術館」としてスタートするまでは、赤字の状態。全く上手くいっていなかった。

そんな状態から、どうやってV字回復を遂げたのか──今回、妖怪美術館をはじめ、迷路のまちでアートプロジェクトを運営するMeiPAM(メイパム)の佐藤秀司、妖怪アーティストの柳生忠平、そしてこの妖怪美術館のリニューアルを仕掛けたON THE TRIPの成瀬勇輝にリニューアルの経緯、そして今後の方向性を語ってもらった。


(左から)MeiPAMの佐藤秀司、ON THE TRIPの成瀬勇輝、妖怪アーティストの柳生忠平

アートを事業として成立させる「難しさ」

佐藤:アート事業で儲けを出す。これはすごく難しいことなんだな、とこれまでの取り組みを振り返ってみて痛感しました。海外でも上手くいっているところは“メセナ”のように、企業や団体から支援を受けている。オペラ劇場もそうですが、入場料収入だけで舞台装置の準備やバレエ団を維持することはできないんですよね。つまり、前提としてアートを事業として成立させるためには支援の仕組みが必要になってくる。そうした中、僕らが迷路のまちでアートを中心とした文化活動を通して利益を生み出し、それで街を盛り上げていくのは簡単なことではないんです。

最初の頃は“現代アート”をテーマに、いろんなアーティストに小豆島に来ていただきました。アーティストが迷路のまちに出入りするのは価値があるし、すごく良いこと。いろんな作品が出来上がるのはとても意義がある取り組みだけど、経営目線で見ると赤字体質になってしまう。

どこを切り替えたら、アートは事業として成り立っていくのか。それを考え始めたことから全てはスタートしました。現代アートはどうしても敷居が高かったり、わかりづらかったりする部分があって、観光客には受け入れられにくい。じゃあ、何が受け入れられやすく、楽しいものなのか。そのアイデアをいろいろ考えた末に浮かび上がってきたアイデアが「妖怪」だったんです。
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文=新國翔大 人物写真=Marco Vinicio Huerta Osuna

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