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施設は生きもの、育て続ける

佐藤:今年は、展示のリニューアルは考えていなかったんです。瀬戸内国際芸術祭の受け入れ体制の整備だけに注力しようと思っていたんですけど、成瀬さんと出会ってしまい、リニューアルに踏切りました。正直体力的にはきつかったですね。でもやってみて本当によかったです。

成瀬さんの「プロモーションに比重を置くよりも、体験価値を向上させていく」という考えがすごく良いな、と。また“妖怪はいない、あるいは見えないだけかもしれない”という導入を経て、迷路のまちに点在する4つの美術館を体験し、最後に忠平の巨大な妖怪天井画を見て、「妖怪はあなたの心の中にいる」と問いかけるストーリー性もいいと思い、これはやってみる価値があると強く思ったんです。バラバラの点が線でつながり、まち全体が面で楽しめる空間になった瞬間でした。これなら入場者も絶対に満足すると思い、入館料を上げることに踏み切りました。



おかげさまで、リニューアル後の反応も良くて、入場者数も右肩上がりで増えています。特に外国人のお客様はブログやSNSなどの口コミで来られていることが多いことがわかって、体験価値の向上が集客につながっていることを確信しています。ただ、これで完成だと思っていません。今後も少しずつバージョンアップしながらやっていきたいですね。

成瀬:佐藤さんが言ったように、僕もこれが最終形だと思っていません。1回つくって終わりではなく、より満足度を上げられるようにずっと関わり続ける。納品するのはスタートで、一緒に育てていくことにコミットしていきます。

同じものを、ずっと同じように展示しているだけでは上手くいかない。個人的にはアプリやサービス作っていくのと似ていると思っていて。ユーザーの声を聞いて、UI/UXを改善していく。ただ、ユーザーの声だけ聞いていても良いものは作れないので、きちんと僕たちが伝えたいことも表現していく。そうやった、みんなと一緒に生き物のように育てていきたいと思っています。この“生き物”として考えることは、多くの観光地であまり足りてない考え方かもしれないですね。

柳生:やりたいことは山ほどあります。例えば、作品空間での落語イベントやいろんなワークショップもやりましたが、まだまだいろんなことができる。これからは広げるだけでなく、深くしていくこともやりたい。どんどん、やったことないことにも挑戦したい。

成瀬:観光客の数を増やすためにプロモーションばかり意識して、“上へ上へ”と広げるのではなく、より深い体験で満足度を高めるために“奥へ奥へ”進むことが大事。そうすることで、そこにしかない体験が味わえるようになり、その結果、観光客が来るようになる。それが観光地にとっては大事な価値観になっていくと思います。

佐藤:全く同感です。特にこれからは、オンラインとオフラインの多面的な組み合わせで、コンセプトの理解を深めることで、お客様のコミットメントを強化したい。多神教をベースにした妖怪という文化は寛容な精神性の象徴。これを理解することが世界平和につながっていく、と僕は信じています。これをみんなに知ってもらいたい。そして僕たちの事業は地域振興事業だけど、アートを中心とした文化活動がコアなんです。多くの人に来てもらうことも大事ですけど、ひとりの人生経験の中でどれだけ深い影響を与えることができたか、ということも大事な指標にしたい。その考えをもってやっていくことが結局は大きな成果につながると信じています。

文=新國翔大 人物写真=Marco Vinicio Huerta Osuna

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