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2019.06.20

起業家に「ならなければならない」人たちがモナコに集結。世界一に輝いたのは?

EY World Entrepreneur Of The Year™世界大会 撮影=小田駿一

起業家は「なる」んじゃない。「ならなければならない」人たちのことだ。

世界ナンバーワンのアントレプレナーが選ばれる表彰制度、「EY World Entrepreneur Of The Year™」が、今年も6月5日から8日の日程でモナコ公国で開催された。2019年の世界の頂点に輝いたのは一体──?

本誌の副編集長、谷本有香が目の当たりにした真の起業家の姿とは。4日間にわたるモナコでの現地取材を通じて、「起業家のリアル」に迫るレポートをお届けする。


モナコ公国を発つその日は、例にもれず雲ひとつない青空で、今年は珍しく過ごしやすいといわれる初夏の空気は、半袖ではやや肌寒かった。世界一の起業家を選ぶ祭典の取材を終えた次の日の朝である。モナコの街中を、毎年6月にシンボルカラーの黄色一色に染めるのは、150を超える国や地域に、アシュアランス、税務、トランザクション、およびアドバイザリーサービスを展開するEY(アーンスト・アンド・ヤング)、彼らこそが、この世界最大イベントの主催者だ。そのイメージカラーのネクタイをした運転手が、丁寧に高級車の中に私を導き、ニース国際空港へ向かった。

車窓からは、高級ブランド店が立ち並び、世界の超高級車が普通に路上駐車していたり、横を走り抜けたりするという、この土地ならではの壮観を楽しむことができる。それも、通常では見られない、特別仕様車や限定車ばかりなんだと同行したスタッフが興奮気味に語っていたのを思い出す。

そんな様子を眺めながら、「祭りのあと」という言葉を想起していた。ただ、ここには興奮が冷めた虚脱感や寂しさ、静けさはまるでない。モナコはモナコらしく、常にそこに輝かしく存在し続ける。

運転手に「いつもこんなきらびやかなところにいたら、どんな気持ちなんでしょうね?」と羨望をにじませながら聞いてみた。ニースから通っているというその彼はいう。「僕たちにとっても、モナコは異質の世界だよ。けれど、少し離れたら、そこには牧歌的な日常がある」。たしかにその会話をしている間にも、車窓には、緑に囲まれた、山の上から見渡す美しい南フランス、コート・ダジュールの景色が広がっている。

一通り、とりとめもない会話を楽しんだ後、運転手が私に聞いてきた。

「で、今回のイベントってなんだったの?」

起業家世界一を決める祭典

その前日、モナコの伝統あるミュージック・ホールであるサル・デ・ゼトワールには、ブラックタイとイブニングドレスを身にまとった参加者、約1000人が固唾をのんで世界一の起業家の発表を待っていた。1986年に米国で初開催され、2001年からはモナコ公国で世界大会を開催している「EY World Entrepreneur Of The Year™」、2019年版のフィナーレである。


EY World Entrepreneur Of The Year™世界大会会場

この発表の前の日、47の国と地域から選ばれた57人の各国の代表たちは、かつてファイナリストであった5人の審査員に対し、それぞれ30分間の最終面談に臨んでいた。彼らのビジネスモデルや売上、市場インパクトなど、定量的な判断材料は当然審査の対象にはなる。だが、世界で最も栄誉ある起業家アワードと呼ばれるこの祭典の最終審査では、極めて大切な要素が徹底的に審査員たちから問われる。

それが、「あなたの起業で、社会にどんな貢献ができるのか、世界をどう変えられるのか」。そして、「なぜそれが、あなたでないといけないのか」である。

そう、この大会はビジネスコンテストではない。世界一の「起業家」を選ぶコンテストなのだ。

2019年のファイナリストたちを眺めてみると、錚々たる顔ぶれだ。昨年グランプリを輩出したブラジルからは、世界有数の規模を誇る教育機関であるKroton Educational S.Aのロドリゴ・ガリンド。また、香港発のAIユニコーン企業 Sense Timeの シュー・リーもいる。また、フランスからは、ゲームソフトの開発や販売を手がける、Ubisoftのイヴ・ギユモが出場した。

起業家の頂への道のり

ファイナリストたちは各国各地域の選考を勝ち抜き、国の代表として選出される。自薦他薦において、文字通り、世界中から集まったアントレプレナーの中で、最もその努力と功績を讃えられた者が手にする栄誉である。その世界の頂点に立つ者を決定するのが、「EY World Entrepreneur Of The Year™」なのだ。

そんな1年の歳月をかけ、選ばれし各国のファイナリストメンバーの顔ぶれや、各功績を見れば、誰が世界一になってもおかしくはないと思う。それ故か、興味深いことに、例年このモナコの会場に足を運んだとき、このような大会なら必ず耳に入ってきそうな下馬評が全く聞こえてこない。それくらい、誰が最後の勝利スピーチを声高らかに読んだとしても不思議ではないのだ。

各国の予選を勝ち抜いた代表たちの誰もが世界一への切符を握りしめる中、イベント最終日の夜、その星霜の結実を逃すまいと、1000人の視線は舞台の一点、EY会長 兼 CEOのマーク・ワインバーガーに注がれていた。彼は、手にする白い封筒から優勝者が書かれているであろうカードを取り出し、そして、会場を見渡した。会場に渦巻く緊張と高揚。それが最高潮に高まった瞬間、ワインバーガーが口を開いた。

「優勝者は、アメリカ代表、Uptake Technologies、ブラッド・キーウェルです」

起業家、ブラッド・キーウェル

キーウェルは現在49歳。Uptake Technologies(以下、Uptake)は予測分析ソフトウェアのプロバイダーである。


ブラッド・キーウェル

後に世界一の起業家として表彰されるこの事業を起案したのが、自身の娘を空港に迎えに行ったときだというのだから、起業の種はどこに転がっているかわからない。彼は、娘が乗るはずの飛行機が、必要としていた部品が空港になかったために遅延する事態に直面し、「これは解決できる」と思ったのだそうだ。それが、このUptake創業の始まりだった。

2014年に創業されたUptakeは、現在10社と協業、機器がいつ故障しそうなのか、不具合が生じそうなのか、産業用機械や装置に設置したセンサーから送られてくるデータを解析し、問題発生前に事前予測を行っている。彼らのソフトウェアによって、適切なメンテナンスが可能になり、企業は数百万ドルの節約ができるのだという。

実は、私たちフォーブスもいち早くこの企業に注目していた。

彼らの創業から1年後、2015年にフォーブスが発表した「最もホットなスタートアップ企業50社ランキング」。当時、未上場企業として世界最大の企業価値を誇るUberも含まれていたが、そのランキングのトップを飾ったのは、当時無名に近いデータ解析サービスのUptakeだった。

Hero’s Final Speech

世界一の起業家が選ばれたその瞬間、夜空に数十発の花火が打ち上げられ、割れんばかりの拍手と、会場を大量のゴールドの紙吹雪が舞った。意外にも、落ち着いた様子で舞台に上るキーウェル。Uptakeの前にも、グルーポンはじめ6社の起業に成功し、60億ドルを超える市場価値を生み出した男である。その彼が壇上で話し始めた姿にやや違和感さえ覚えたのは私だけではないだろう。

世界一に選ばれた高揚感に包まるわけでもない、世界中の代表たちの前に立つことの緊張感に震えるでもない、ただ、恐らくいつもどおりの彼の謙虚さと真摯な姿勢を崩さず、冷静沈着とした面持ちで喋り出した最初の一言はこうだった。

「この場で、各国のトップの皆様を前にお話させていただくことをお許しください」

そして、淡々と自分がこれまで信じてきたこと、考えていることを飾り立てることなく述べていく。世界一のアントレプレナーに輝いた彼のスピーチは、典型的な欧米型のプレゼンスタイルとはかけ離れたものだったと言っていい。むしろ、大きな身振り手振りもつけず、額や頭の汗を拭い、手元でハンカチなのか紙なのか、白い何かを弄びながら、言葉を選び話すその様子は、「起業家」という自身に対して、任務を忠実に履行することを誓う宣誓のようにも見えた。

彼は受賞に際し、こうも述べている。「アントレプレナー精神とは、型を破る人になるということだけではなく、同時に型を作る人になるということ」。そして、「世界の産業界にディスラプションを起こす、データ収集と予測分析の革命は、まだ始まったばかり。この新しく必要不可欠な分野で、世界の最も差し迫った経済的・社会的課題のいくつかに長期的かつ持続可能なソリューションを生み出していけるように努力を続けます」

祭りのあと

「成功する起業家とそうでない起業家、何が違うのか」

よく聞かれる質問だ。

私はモナコで出会った多くのファイナリスト、そして、世界一を手にしたキーウェルの言葉を思い出す。

成功しようとして成功できるわけじゃない。もっと言えば、起業家になろうとして起業家になったわけでもない。いわゆる「成功者」と呼ばれる彼らは、キーウェルの最後のスピーチの中でも触れられていたが、アーティストがアートを作り出さなければ生きていけないように、彼らもまた、目の前にある課題に取り組まなければ前へ進めない人たちだ。

つまり、彼らは皆、必要にかられ、世の中に新しい可能性を創造し続けてきた。その結果、「偉大なる起業家」として称賛されたり、「成功」という目に見えない勲章を与えられたりするのである。

ニース空港の姿が目に入ってきたあたりで、私は運転手に最後にこう付け加えた。

「自分がしなければならないことに、一番忠実に向き合えた人が表彰される。こんなイベントが毎年モナコで開かれるのは素晴らしいですよね」

運転手は納得したように、ミラー越しに微笑んで頷いた。


EY World Entrepreneur Of The Year™パーティーでの筆者

Promoted by EY Japan / 文=谷本有香 / 写真=小田駿一

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