──樋口さんにとって理念とはどのようなものなのでしょうか?
正直、日々の業務の中で常に理念を意識しているかといえば、意識はしていません。生き残るために精一杯ということもあるので、意識から外れてしまっているときもあります。
しかし、ビジネスで困難や岐路に立たされたときこそ、「理念って大事だな」と思うんです。つまり、理念は判断に迷ったときの拠りどころだといえると思います。
例えば、判断が難しい選択を迫られたときに、理念がないと判断できなくなってしまう。「そういえば、会社をこうしたかったよな」という理念があれば、落ち着いて考えることができるんです。
理念は社内のメンバーにも浸透させるようにしていますが、丸暗記をする必要はなくて、「判断に迷ったときに、その判断の拠りどころにしてほしい」と伝えています。
──理念は掲げるだけでなく、役に立つことが本質ということですね。とはいえ創業時は、目の前のことに手いっぱいで、理念はまだ遠くに位置していますよね。それでも、理念が機能していたのでしょうか?
おっしゃる通り、経営理念である「テクノロジー×イノベーションで、人々に感動を。」を達成して世界のトップ企業になることは、ものすごく果てしない展望です。そんな壮大な理念を機能させるには、日々の実績の重要性をどれだけ経営者が理解しているかが鍵になると思います。
私はライト兄弟が好きなんですが、まだ飛行に成功していなかった当時、彼らは壮大な夢を馬鹿にされていたと思うんです。だって、いきなり翼をつけて飛ぼうとするわけじゃないですか(笑)。でも途中で、「こいつらならやれるかもしれない」と思われるようになる。なぜ周囲の見方が変わったかというと、実績を出していったからに他なりません。
何が言いたいかというと、大きな理念を掲げることはとても大事ですが、それ以上に実績が伴わなければいけないということ。これについて、起業家が理解していることが何よりも重要です。
近年、「大きなことを言う人が減ってきている」と言われていますが、大きなことを言うことが目的ではなくて、言ったあとの実績の方が大事ですよね。そこに責任があるはずですから。