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情報を集めて分析することが、とかく重視される時代だ。だが、私たちには本来、「心の目」で的を見て、それを射抜く力が備わっているはず。情報過多の時代に、データに頼らずに生きる術とは。


次世代の通信システム5G(第五世代移動通信システム)が話題になっている。現代では目的を達成するためにいち早く情報を集め処理することが必要だと信じられており、スマホのデータ通信量は増え続けている。顧客情報のビッグデータをAIで管理する企業が膨大な利益を得る、そんな社会だ。情報を受信、発信することが成功の必須条件のように思われている。

しかし同等の成功を達成するために、情報を集めなくてもよい方法があることを知っているだろうか。今回はそんな話をしたい。

大正時代に、日本の大学で教鞭をとるために来日したドイツ人が、日本の弓道に学んだという逸話が残っている。話の内容はこうだ。

弓道を学び始めたそのドイツ人は技術を学ぼうと努力する。力の入れ方、抜き方、筋肉をつける努力──などだ。長い期間それをするが、なかなか師匠からは認めてもらえないし、的にも当たらない。でもどこかに秘密のコツ、勘所があるはずだと情報収集とトレーニングをする。しかし師匠は認めない。

師匠は「弓は心で引くもの。矢が的に当たる時には、手から矢が自然に離れる。弓道とは心で射るのだ」という。矢と的が一体になることを認識すると自然に手が緩み、矢が本来そうであるように的と一体となるという訳のわからない説明をする。

師匠はある夜、そのドイツ人を連れ出す。そしてその暗闇の中、二本の矢を放つのだ。一本目は的の中心に、二本目の矢は一本目の矢を射抜いていた。これを見たそのドイツ人は、師匠が目で的を見てないことがわかり、心で射る稽古を始め、ついに師匠から認められる──という内容だ。(オイゲン・ヘリゲル『日本の弓術』岩波文庫)

一方、アーチェリーは文字化できる情報に基づくトレーニングが重視されるのだろう。弓や矢の性能にも左右されるかもしれない。情報収集が早い方が的に当たる。

情報収集して的に当てる洋弓も、精神の鍛錬で当てる弓道も、「矢を的に当てる」という現象自体は同じだ。現代では文字化しやすい情報戦に偏る傾向にある。だが、金儲けでも異性でもライフスタイルでも、自分が定めた目標を実現するために弓道の方法が参考になる。現代風に言うならばポジティブシンキングに繋がるのかもしれない。心の修行を積むことで、目標に到達することができるはずなのだ。

私は東洋医学に浸り人の治る姿を診るようになって、文字化できない情報の大切さがわかるようになった。そんな私の目で見ると、目標を達成するために一見、不可能に思えてもその実現には弓道のように心でその的を自分と一体化する作業の大切さが見えてくるのだ。実際、気付かないうちに弓道方式で夢を実現している人たちを沢山私はみた。心が目標につながると仕事で絶妙のタイミングで出会いや偶然が重なる。日本の弓で的を当てるような仕事のスタイルが現実にあることを知ってほしい。


さくらい・りゅうせい◎1965年、奈良市生まれ。国立佐賀医科大学を卒業。元聖マリアンナ医科大学の内科講師の他、世界各地で診療。近著に『病気にならない生き方・考え方』(PHP文庫)。

文=桜井竜生

VOL.19

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