焼失したマスターはデューク・エリントンやカウント・ベイシーといった古典から、チャック・ベリー、レイ・チャールズなどのロック創世記の音源、さらにはポップ全盛期のエルトン・ジョンや、グランジ・ロックを代表するニルバーナまで多岐なジャンルに渡る。
ユニバーサルの親会社のフランスのビベンディは、昨年からユニバーサルの株式の50%を他社に売却する交渉を進めているが、焼失したマスターの正確な数が把握できていないことは大きな問題だ。
ストリーミング人気の高まりの中で、ビベンディはユニバーサルの株式の価値を300億ドルと試算していたが、このタイミングで今回の件が報じられたことは同社にとって最悪のタイミングといえそうだ。
ユニバーサルが同社の価値の源泉である、音源のマスターを喪失したことは非常に重大だ。焼失したマスターには、1950年代以降のコンサート音源やレコーディングのミックスダウンを収録したマルチトラック音源が含まれていた。
これらの1インチから2インチのテープにはフランク・シナトラの3トラック音源や、4〜16トラックのビートルズのもの、24〜48トラックのスティーリー・ダンなどの音源があった。オリジナル音源が焼失した場合、新たなミックスは発売不可能になる。また、将来的に新たなテクノロジーで創出可能だったはずの利益も失われる。
レーベルの価値の源泉である、これらのリソースが失われたことは致命的な打撃といえる。ユニバーサルの説明によると、マスターのコピーは焼失を免れたというが、これらのコピーはオリジナルと全く同じではない。コピーにはオリジナルと比較すると音質の劣化が存在する。
また、オリジナルに存在した複数のトラックが保存されていないため、追加でリミックスを加えた新バージョンの発売が不可能になり、新たな収益を生み出せないことになる。
ユニバーサルがこの火災で一体どれほどの金銭的損失を被ることになるのかは、現時点では推測不可能だ。今後はアーティスト側から損害賠償請求の訴えが起こされる可能性もある。その動向がユニバーサルの売却価値に影響を与えることも十分予測される。