──GHITについて教えてください。
2013年に設立されたGHITは、日本政府が半分出資し、民間企業やビル・ゲイツ財団、ウェルカムなどが残りの半分を出資するファンドです。これまでに累計で170億円を、80件の新薬開発プロジェクトに投資を行い、114もの国内外の機関が参画してくれています。現在、南米やアフリカでマラリアや結核、シャーガス病、住血吸虫症、マイセトーマを対象とした7件の臨床実験が進んでいます。
──4月にCEOに就任したばかりですが、どのような仕事に注力していますか。
就任してからは、GHITを支援してくださる多様なステークホルダーのトップから直接話を伺い、いかに連携を加速できるかについて議論を重ねています。
──なぜ日本が開発途上国向けの新薬開発に関わる必要があるのでしょうか。
日本は、医療技術や保険制度も恵まれています。開発途上国の人々の目線でニーズを考えた時に、日本ができることは無限大にあります。また、国際的な日本のネームバリューもあげることができます。そこにも無限大の可能性を感じます。
私が重視しているのは、自分のアイデンティティの強みである日本を発信することです。日本の技術やイノベーションで、日本だけでなく、途上国だけでなく、世界の患者に変化を届けたい。それがGHITに一番共感しているところです。
──子育てのフィロソフィーはありますか。
13歳と15歳の男の子がいます。こだわっているのは、日本語を話すこと。会話が日本語で出来るというところだけは徹底したい。彼らはアメリカで生まれ育っていますが、主人も私も日本語だけで話します。日曜は日本語補習校に通わせました。泣かれて、大げんかもしましたが、日本語は自分の差別化の方法になるんです。自分は、その差別化の機会をもらったので、自分も彼らにその機会を与えたいですね。それを大きくなって使うかは彼ら次第です。
──なぜそこまで日本にこだわるのでしょうか。
日本にこだわることが武器だったのだと思います。小学校低学年の時、母親は違う国の人で、周りには外国人がいない。自分の居場所はどこなのか。何人なのか。アイデンティティ・クライシスでした。
「自分がいたいと思うところが自分の居場所だ」と思えるようになったのは、時間が経ってからです。自分がいたいのは日本でした。それは歳を重ねるごとに強くなっています。中学でアメリカの教育に触れて、日本の誇りを意識するようになり、どんどんそのアイデンティティが強くなったのだと思います。アメリカでも世界でも働きたいですが、どこにいても日本には絶対貢献したいのです。
大浦佳世理(おおうら・かせり)◎グローバルヘルス技術振興基金(GHIT Fund)CEO兼専務理事。福岡県生まれ。米デンバー大学卒業後、1998年にKyowa Pharmaceutical Inc. (当時)に入社。臨床開発や薬事、R&Dプロジェクト・マネジメントなどを担当した。2010年にブリストル・マイヤーズ スクイブ米国本社に入社、オプジーボのR&Dグローバルプロジェクトマネージャーを担当。12年にブリストル・マイヤーズ スクイブ日本法人の執行役員に着任した。テンプル大学薬学部で修士号取得、カペラ大学プロジェクトマネージメント部博士号過程取得。19年4月から現職。