旅行者、留学生、国内金融、米中貿易摩擦の意外な飛び火先

(Photo by Thomas Peter-Pool/Getty Images)


さらに、米中貿易摩擦の飛び火は、国内金融にも及んできた。あまり知られていないが、移民政策に厳しくなってきたアメリカとはいえ、大きな投資をしてくれるならほぼ自動的に永住権を出すプログラムがある。EB-5と呼ばれる仕組みだが、約1億円の投資と10人以上の雇用が生まれるとなると、その投資家に対して投資ビザが発給され、これは永住権への昇格が実質的にほぼ約束されているビザだ。

これには、毎年、1万件以上の応募があり、2017年には1万2000件の応募があったものの、これが去年6000件へと半減し、この原因のほとんどは中国人投資家の減少だという。

もともとビザを金で買うという割り切りなので、アメリカのデベロッパーはゼロに近いような利回りでも中国人投資家を集められたのだが、現在はこのビザを目的とした投資そのものが減り、その分、無担保ローンに頼るようになり、10%を軽く超えるような金利負担が生じているという。

G20財相会議での日本の使命

なるほど、トランプ大統領が言うように、こと貿易不均衡に関しては、中国が輸出に頼っていた現状は間違いなく、「アメリカが中国を必要とするより、中国がアメリカを必要とする。だから関税を上げていいのだ」という理屈は正しかった。年が明けてから、どれだけ貿易問題が報道されても、それを理由に株式市場は緊張を警告すれども、大きく影響を受けてこなかった。

しかし旅行や留学などの貿易外収支となると話は違う。立場はまったく逆になる。日本の観光地や商店街が、中国人観光客によって支えられている以上に、アメリカの観光地は中国人で持っている。さらに、毎年ただのような利率で1兆円の直接投資があったものが、いきなり半減するようになると、アメリカの不動産開発にも影響が出る。

さらに日経新聞によれば、中国はレアアースの世界一の産出国で、外貨稼ぎの主要品目の1つであるにもかかわらず、アメリカへのレアアースの輸出制限も検討し始めたという。アメリカでは軍事品でレアアースを採用しているものも少なくないことから、課税だけでなく、輸出制限となると、貿易戦争の戦域が拡大したと言える。

おりしも、G20福岡財務大臣・中央銀行総裁会議が行われ、この問題が中国の(新興国への)「債務の罠」問題と並んで最大議題として扱われ、世界の懸念が集まっている。議長国の日本は米中摩擦のかじ取りを預けられた形になったが、米中両国が、この貿易戦争の落としどころを早く見つけないと世界経済の失速さえ招きそうだ。

連載:ラスベガス発 U.S.A.スプリット通信
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文=長野慶太

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