果たして本当に、広告は終焉したのだろうか。世界的な広告祭「カンヌライオンズ」を間近に控えた6月10日、電通本社ビルで、同社クリエイティブディレクターの佐々木康晴に直球で質問を投げかけてみた。彼は、2011年と2013年の「カンヌライオンズ」で金賞を受賞し、今年は「クリエイティブデータライオンズ」の審査員長を務める。
「従来の広告成功体験がまだ強く残っている人たちにとっては、終焉したとも言えるでしょう。でもその分、視点を変えれば広告の可能性は広がっている。近年のカンヌライオンズの拡大化が物語っています」
それが回答だった。具体的にどういうことなのか。今年のカンヌライオンズで佐々木康晴が審査員長として期待すること、そして、これからの広告とクリエイターの可能性を聞いた。
──カンヌライオンズの審査員として参加されるのは今年で3回目と聞いています。佐々木さんの「クリエイティブデータライオンズ」審査員長としての役割を教えてください。
審査員長と言っても、そんなに偉くありません(笑)。審査の大枠の方針は僕が決めますが、あとは、国籍もキャリアのバックグラウンドも異なる合計10名のメンバーでカンヌに集まり、みんなでフェアに議論をして、受賞作品を選出します。
今年で創設5年目を迎えた「クリエイティブデータライオンズ」は、「データとクリエイティビティを融合させて、今まで見たことがないようなやり方で人を動かすことができたか」という視点で受賞作品を選びます。
2017年のグランプリ受賞作品、アメリカの家電メーカー「Whirlpool(ワープール)」の「Care Counts」がわかりやすいですね。
ワープールはアメリカ全土における家庭環境と不登校の関係性を調査しました。そこでわかったのは、綺麗な服で登校できないことも不登校の原因になるということ。
そこで、自社の洗濯乾燥機を17の小学校に寄付したんです。洗濯記録データと生徒の出席データを連動させてキャンペーンを実施した結果、生徒たちの出席率は前年度に比べ大きく向上しました。
統計によれば、不登校や退学になった生徒は、将来犯罪を犯す率が高く、就労率が低い傾向もある。不登校という今ある問題の解決だけではなく、将来起こりうる問題も洗濯乾燥機が解決できる可能性を示しました。
クリエイティブデータライオンズは、大量の小難しいデータを使うことが正解ではありません。そして、ただ広告の効率を上げることを褒めるものでもありません。データとアイデアの掛け合わせで、どう人の気持ちと行動を変えるか。コンサルティングの世界からは出てこないデータのジャンプ力が問われます。
審査員長としてのミッションは、データを苦手と感じるクリエイターたちに、データの面白さに気づいてもらうこと。「こんなデータの使い方があったのか!」と多くの人に気づいてもらうきっかけになれば嬉しいですね。