このクラフトジンブームを改めて認識したのはこの5月、世界のフードジャーナリストたちと出かけたオーストラリア、クイーンズランド州への旅だった。
オーストラリアはワインの生産量で世界第5位を占めるワイン大国でもあるが、道連れとなったジャーナリストたちがもっとも熱気を帯びたのがクラフトジンの蒸溜所を訪ねたときのことだった。思えば彼ら、ディナー時にもジントニックやネグローニ(ジンを使用したカクテル)ばかり飲んでいたし、その際にも「ジンブームはまだまだ終わらないんだなぁ」と実感したものだけれど。
さて、オーストラリアのジンといえば「フォーピラーズ(Four Pillars)」が有名だが、私たちが訪れたのはゴールドコーストにある「グランダッド・ジャックス(Granddad Jack’s)」。いわば“ジャックじいさんち”というようなニュアンスだろうか? テイスティングと販売を兼ねたスペースと蒸留器でバスケットコート1面ほどというこぢんまりとした蒸溜所であった。
彼らが造っているクラフトジンは3種類。なかでもシグネチャー的存在といえる「Green House」はジンの基本となるジュニパーベリー(ネズの実)はもちろんのこと、キュウリ、ローズヒップ、グレープフルーツピールに、クイーンズランド州原産のハーブであるレモンマートルを使用した、フレッシュで華やかな風味のジンだった。どちらかといえばフェミニンな印象で、女性にもウケがよさそう。少し甘めのトニックで割れば食前酒に最高の一杯になりそうだ。
テイスティングには少し多すぎる量をみんなで楽しんでいた際、食通としても知られる香港のジャーナリスト、ウォルターが言った。
「ワインはそれを専門に学んだ人だけが語れるような印象があるけれど、ジンは誰でも知っている素材から造られ、製法もそれほど複雑じゃないから、イージーでいいよね。でもワイン以上にその産地のテロワールを語れる要素も持っている。そこがクラフトジンの人気の理由なんじゃないの?」
「ジントニックが有名だけど、ネグローニやマティーニ、ギムレット……飲み方によって味が変わるもの楽しいのよね。もちろん私はシンガポール・スリングが好きだけど」と笑うのはシンガポール在住のインフルエンサーであるリディア。
「歴史とか権威ってやつと無縁なのも俺の好みだね」と言ったのはNYに住んでいるというライターのボブ。でも私、ジンを購入していた彼のクレジットカードがセンチュリオンなのを見てしまったのだけど……。まあ人にはいろんな面があるものですよね(笑)。
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それはさておき、クラフトジンは、ワインと同等か、それ以上に産地の風土やカルチャーを表すのは間違いのないことだろう。ワイントレイルはいま各地で行われているが、ジンで巡る旅も楽しそうだ。
Granddad Jack’s Craft Distillery
45 Lemana Ln, Miami QLD 4220 AUSTRALIA
www.granddadjacks.com