トルコ人研究者が日本で見据える「ロボットと人間が共存する世界」

ケミクスィズ・アスル

「西洋のSF世界には、人間になりたくてもなれないロボットが多いのですが、日本のアニメのロボットと人間の関わり方は違います。そう気づいたのが24歳の頃。日本で研究をしようと思ったのはその頃です」

こう語るケミクスィズ・アスルは現在、大阪大学の文化人類学者として「ロボット工学や人工知能研究」を研究している。

トルコから日本に来て7年以上。彼女が異国で研究を続けてきたモチベーションを聞いた。


──アスルさんが今、日本で進めている研究内容お教えていただけますか?

私の専門は「科学技術の文化人類学」です。もう少し噛み砕くと、ペッパーくんのような人工知能を備えたロボットを開発する工学者と、そうした学問を取り巻く環境の研究をしています。

「ロボット」と聞いて、みなさんの頭にまず浮かぶのはSF映画の世界で観るような人型ロボットではないでしょうか?

そのイメージに近いロボットの実現はまだ不確かではありますが、「知能は必ずしも人間だけのものではない」という前提が研究のインスピレーションの源になっています。

賢くて便利な「ルンバ」の知能は、床を上手にナビゲートし、隅々まで掃除をするためにあります。そこに画像認識やマッピングの機能をつけると、さらに知能は向上します。

「ルンバの世界」は「人の世界」と比べると、とてもシンプルです。ルンバにとってもっとも重要なものは、壁や家具などの障害物と何もない床などひらけた空間。シンプルなデザインでシンプルな原理に基づいて効率に動くから、ルンバは賢くて便利なロボットの具体例として筆頭に挙がります。

ルンバのようなロボットが身近にいると忘れがちですが、ロボット全てが安全であるわけではありません。特に産業用ロボットは、気をつけないととても危険な存在になります。現在ロボット工学の一つの応用例は、「ロボットを賢く、柔らかいものにも対応できるように、自動化の安全性を高める」ことです。

知能を備えた賢いロボットにも、苦手なものがあります。それは、人間の体やフルーツのような柔らかいものです。ロボットが柔らかいものを上手に扱えるようになれば、人間とロボットの安全な共存社会に近づくことができます。

私が調査した研究室で使用していたのは、人間ほどの大きさがある、実験中に当たったら痛いと感じるようなロボットです。工場などで生産性を上げるロボットは研究室のロボットと比べるともっと危険です。人が誤って作業中の巨大なロボットに近づけば、怪我や命を落とすことにもなりかねません。

だから現在のロボット工学の研究では、ロボットの認識力を高めることで安全な作業空間づくりを目指しています。着実に進歩をしていますが、ゴールはずっと先ですね。
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構成=裵麗善(ぺ・リョソン) イラストレーション=Luke Waller

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