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──そもそも、どうして日本でこのような研究をしようと思ったのですか? ロボットを取り巻く環境を研究するのなら、アメリカが適当だとも思いました。

もともと私は、西洋のSF小説と映画に関心がありました。トルコでの院生時代には、SFの中のロボットについて研究をしました。しかし、ストーリーには引き込まれたものの、なかなか共感を抱くことができなかった。洋画に登場するロボットは、人間になりたくてもなれないものばかりだったのです。

だから24歳の時に「攻殻機動隊」を観て感銘を受けました。人間とロボットの境界が曖昧な世界を生み出し、それが広く引け入れられる日本に関心を持つようになったのはこの時からです。

攻殻機動隊の他にも、アトムやドラえもんなど、日本のアニメに登場するロボットはいつか人間になれるような気がしました。日本へ興味を抱くようになってから、2010年、13カ国約300人が参加する内閣府の「世界青年の船」というプログラムにトルコ代表者として選ばれました。

それまで日本に来たことはありませんでしたが、家族も誇りに思ってくれて。本格的に日本語の勉強を始めたのは2012年、こちらに来てからです。

慣れない生活で新しい言語を学ぶことにかなり苦労しましたが、今では日本語で研究することに不便に感じることはほとんどありません。

──日本は世界的に見ても研究者を手厚くサポートできる環境が整っていないこともでも有名です。決して楽ではない環境で研究を続けることができたのはなぜでしょうか。

日本の研究費や生活費は高いので、アルバイトをしながらなんとか収支を合わせています。ヨーロッパでは大学院の研究員は立派な職業とみなされているにも関わらず、日本ではアルバイト扱い。奨学金をもらったものの、研究を続けるには決して良い環境ではありません。

ここまで続けることができたのは、誰よりも強い好奇心があったからです。

研究対象の方々に直接お会いするたびに発見があるし、同時に次々と疑問が湧いてきます。それを一つ一つ紐解いて、自分なりの答えを探していると、ワクワクする気持ちで胸がいっぱいになります。答えのなさそうな疑問を思いつくのも楽しいし、冒険みたいですね。

私は決して裕福な家庭で育ったわけではありません。両親は小学校卒業後に働き始めたので、エリートな親が当たり前のように我が子をレベルの高い学校に送るような家庭とは状況が異なるでしょう。

幼い頃から、何かに興味を持ったら自分が納得するまで探求しないと気が済まない、研究者気質なんです。今年卒業を控えていますが、今後も研究活動を続ける予定です。

現実でもSFの世界でも、未来を作るのは現在です。「ロボットと人間の共存」という遠くて明るい未来のために、好奇心をエネルギーに学び続けたいと思います。



ケミクスィズ・アスル◎トルコ、イスタンブール生まれ。大阪大学人間科学研究科で科学技術の文化人類学そして科学技術論の研究を進める。第22回世界青年の船トルコ代表者。トルコ語、英語、日本語、フランス語を操る。

構成=裵麗善(ぺ・リョソン) イラストレーション=Luke Waller

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